想像を超える教え子たち…中日・根尾&石橋の今/田村藤夫のプレミアムリポート
2020年からニッカンスポーツ・コムで連載を続けてきた田村藤夫氏(63)の「ファームリポート」。現場に足を運び、選手の可能性や課題に着目する企画は、2022年7月に100回を超えました。「プレミアムリポート」では技術面に加え、背景にある人間性やドラマ、田村氏自身の42年間のプロ野球生活での出会いや経験にも迫ります。第1回は中日2軍バッテリーコーチ時代に接した2人にスポットを当てました。
プロ野球
笑顔の根尾は私に言った。「あいつ次第です」。その視線の先で、同期の石橋がバットを振っていた。
◆田村藤夫(たむら・ふじお)1959年(昭34)10月24日生まれ、千葉県習志野市出身。関東第一から77年にドラフト6位で日本ハム入団。81年9月27日の阪急戦で1軍デビューし、世界の盗塁王福本の盗塁を阻止。ロッテ-ダイエーを経て98年に引退。ソフトバンクや日本ハムなどでコーチを歴任し、2019年まで中日で2軍バッテリーコーチを務めた。
フェニックス中止 室内練習場に入ると…
10月17日、宮崎サンマリンスタジアムで行う予定だったフェニックスリーグ楽天-中日戦は雨天中止になった。うまくいけば根尾昂(22=大阪桐蔭・18年ドラフト1位)のピッチングを、もしくは捕手石橋康太(21=関東第一・同年4位)のプレーを見られたらと思ったが、中止の知らせが入った。
仕方ないな、と思っていたところサンマリンスタジアムに隣接する室内練習場で、中日が練習をしていると分かった。
チーム関係者に連絡してみると、練習を見せてくれるという。やっぱり宮崎まで足を運んで良かった。片岡2軍監督とは日本ハム時代に一緒にプレーをしていた。しばらく話した後でブルペンに向かった。根尾がいた。私は19年まで中日2軍バッテリーコーチだった。
笑顔で「お疲れさまです」と元気よくあいさつしてきた。変わっていない。4年目となり、もうプロの生活は板についている。それでいて、初々しさとまでは言わないが、謙虚な姿勢は崩れていない。ここまで結果が出ず苦しかったことを感じさせない。春のキャンプ以来、久しぶりに言葉をかわしたが、予想通りの感じの良さだった。
根尾の4年目のシーズンが終わろうとしている。世代NO・1の評価で地元中日に入り、結果がでないもどかしさの中、食らい付こうと必死だったと思う。そして、甲子園優勝投手でのドラフト1位のプレッシャーは、私には想像できないことだった。
根尾は常に苦しみの中にいた。ショートから外野へ、そしてまたショートへ。さらに再び外野へ。
ショートとしては送球に不安定さが、そしてバッティングで決定的な改善点があった。追い込まれてボール球を大きなスイングで振ってしまう。空振り三振が多く、もろく映る。本人も何とかしようとしていたが、打開できずにいた。
遊撃→外野→遊撃→外野→投手
22年の春のキャンプ。練習試合の当日、根尾はチームから離れ、1人で北谷で特打をしていた。私はDeNAのキャンプ地から北谷に向かった。
立浪監督と森野打撃コーチが話し合い、練習試合で結果を気にするよりも、何も考えずにとことんまでバットを振ったらどうか、という意味合いでの特打だった。
根尾は室内練習場で黙々と振っていた。ティー打撃をして、マシンを打ち込み、素振り。さらにまたティー打撃。一心不乱に振っていた。邪魔にならぬよう、視界に入らないところで見た。
いろいろ試しながらのスイングだとは思うが、調子が上がらないように感じた。そんな姿を見ながら、私の頭には立浪監督の言葉がこびりついていた。
数日前に北谷を訪れた際、立浪監督とベンチで話した。根尾の投手起用を考えていると言っていた。ショート、外野、そして投手。根尾の運動能力からすれば驚かない。それだけの力を秘めている。チームに貢献できる根尾のポジションを立浪監督は模索していた。
その会話が頭にあるだけに、根尾が修行僧のようにバットを振る姿は胸に迫るものがあった。生き残るため誰もが必死だ。居場所を見つける努力を成功するまで続ける。成功しても続ける。努力を怠った時、終わりが見えてくる。
北谷での居残り特打を終えた根尾は、いつものように爽やかに、礼儀正しくあいさつしてきた。かける言葉はなかった。これからのプロ生活がどう転んでいくのか、誰にも分からない。根尾自身にも見えない、立浪監督も暗中模索、それが実情だった。
こうして根尾を描写すると、いかにもきまじめで、練習の虫という印象しか持たれないかもしれない。
しかし、仲間といる時の根尾は明るい青年だ。石橋康太。高卒で根尾と同期。母校が私と同じ関東第一だった。私が根尾に強く印象が残る背景がそこにあった。
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1959年(昭34)10月24日、千葉・習志野出身。
関東第一から77年のドラフト6位で日本ハム入団。93年に初のベストナイン、ゴールデングラブ賞を受賞。
93年オフ、巨人長嶋監督からFA移籍でのラブコールを受け(日本ハムに残留)、96年オフには、当時の王監督(現会長)から直接電話でダイエー(現ソフトバンク)移籍を決断。07年から中日落合監督に請われて入閣した。
ONと落合氏から高く評価された捕手だが、田村氏はそうした経緯について「自分から人に話すことではない」というスタンスをかたくなに守る。42年間のプロ野球生活を経て解説者に。プロ通算1552試合出場、1123安打、110本塁打。
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