七転び八起き-。W杯のピッチに立つ者は、誰しも挫折を味わっている。

日本対スウェーデン 後半、先制ゴールを決める前田大然(手前)(撮影・足立雅史)
日本対スウェーデン 後半、先制ゴールを決める前田大然(手前)(撮影・足立雅史)

W杯1次リーグ最終スウェーデン戦で先制点を挙げたMF前田大然(28)、途中出場で守備を固めたDF渡辺剛(29)はともに山梨学院高サッカー部の出身。学年は1つ違うが、同じ環境に身を置いて成長した。

83歳の今も矍鑠(かくしゃく)とし、指導を続ける横森巧総監督は、2人の活躍に目を細めた。

前回カタール大会出場時の前田大然のユニホームを持つ山梨学院高サッカー部の横森巧総監督
前回カタール大会出場時の前田大然のユニホームを持つ山梨学院高サッカー部の横森巧総監督

「最初は中村のゴールかと思ったら大然だった。決勝トーナメント進出も含めてうれしさは倍ですね」

前田は高校時代、悪ふざけが過ぎた規律違反で一度はサッカー部から追放された。寮を出ての一人暮らし。大阪から母が通い生活を立て直した。1人で走り込み体力を維持した。パン屋でバイトもした。これまでも報じられているが、挫折を味わい人間が変わった。

「家族の愛っていうのかな、お母さんがすごくそういうものを持っている人だった。それに大然がしっかりと応えた」

横森総監督らスタッフも見捨てず、陰ながらサポートした。そして9カ月後、部活動への参加が認められた。心を入れ替えた前田は、周囲の期待に応えようと走り続けた。

「大然は本当に必死で、絶対に何とかしようと思ってやっていた。自信を1つ1つずつ付けながらやっているような感じでした」

人よりも優れた強さとスピードがあった。横森総監督の60年近い指導歴の中でも、能力はズバ抜けていた。そこへ心が追いついた。一度は塞がったプロへの道を再び自らこじ開けた。

日本対スウェーデン 後半、途中出場の渡辺剛(撮影・足立雅史)
日本対スウェーデン 後半、途中出場の渡辺剛(撮影・足立雅史)

渡辺も挫折を知る。FC東京のジュニアユースからユースへ昇格できず、山梨学院高の門をたたいた。もともとボランチだったが、高校でセンターバックという最適解を見つけ出した。

そのきっかけとなったのが1年夏の韓国遠征だった。Kリーグの強豪、蔚山現代のユースチームと試合を行った。横森総監督は対人の強さを見抜き、センターバックで起用した。

「まだ173センチくらいで剛の方が小さかったんだけど、相手の180センチちょっとあるセンターフォワードと互角に戦ってました。こっちは1年生でしたけど、相手は2、3年生です。コイツやるなぁ、なんて思いました。試合は0-0で、相手の監督がメチャクチャ怒っていました」

その経験が渡辺を強くした。そこから安定した守備力を発揮するようになり、「3年生になる頃はもう本当にチームの中心でした。彼がいるとそう失点しない。本当に高校で一番伸びた選手だと思います」。

小さかった体も180センチを超え、中大進学を経てプロ入りを果たす。「もう真剣にサッカーのことを考え、行動する子でした。だから成長できた」。その後の活躍は割愛するが、今やW杯のピッチに立っている。

次は本気のブラジルが待っている。昨年10月の親善試合では3-2と勝利したが、それはあくまでテストに過ぎない。今回はW杯の舞台なのだから。

「本当にすごいことだと思います。一生の中でもこんな機会はないですよ。本気のブラジルとW杯で争うなんて、今までちょっと考えられなかったです。私はその姿を見るだけですごい幸せを感じているんですけども、でも勝ってもらいたい」

7月で84歳を迎える名伯楽は、孫のような教え子たちの姿に胸を高鳴らせている。【佐藤隆志】