「ワールドカップは売り物ではない」
欧州サッカー連盟(UEFA)が、断固たる姿勢で国際サッカー連盟(FIFA)にNOを突きつけた。
FIFAのインファンティノ会長が28日、主催大会の商業活動などを担う子会社「FIFAフォワード・エンタープライズ」の設立案を公表したことが発端だ。2割の株式を外部投資家に売却することでさらなる商業主義を招き、伝統あるW杯の形態そのものが崩れることを懸念する。
しかも秘密裏に話が進められたこともあり、UEFAは公式文書で憤りをあらわにしている。
「サッカー界にとってこれほど重要な提案が、秘密裏に立案され、サッカー界の運営を担う関係者との有意義な協議を一切行わずに承認寸前まで進められたことは、無責任かつ弁解の余地のない行為である」
この計画が取り下げられるまで、W杯などFIFA主催大会へのボイコットを強行する決議がUEFA加盟55協会で採択された。
今夏のW杯北中米大会の大騒動がよみがえる。
米国代表FWバログンの出場停止を「猶予」とした大問題だ。トランプ米大統領が“盟友”インファンティノ会長に直接連絡し、処遇の再検討を求めた。すると規律委員会の裁定は一転して変更された。前代未聞の事態であり、言語道断の行為だった。その時もUEFAはFIFAに対し、強い文言で非難した。
大会が終わっても、インファンティノ会長とトランプ大統領の蜜月が続いているのだろうか。そう勘繰られるのも当然だろう。今回の子会社計画で株式の売却候補者として、トランプ大統領の娘婿の親族の名前が上がっていることまですっぱ抜かれたのだから、ばつが悪い。
昨年12月に新設した「FIFA平和賞」をトランプ大統領に授与したことに始まり、インファンティノ会長を見る目は冷ややかさを増している。トランプ大統領の言葉を借りるなら、すべてこの世は「ディール(取り引き)」なのか。
そもそもFIFAとは、どういう団体なのか。
1904年にパリで設立された。19世紀以降、相次いで各国協会が設立されたが、そこは揺籃(ようらん)期。異なるルールで行われていたものを整備し、統一した。また、第1次世界大戦を経て戦勝国と戦敗国の間を取り持ち、サッカーを通じて国際関係の正常化も図った。いわゆる競技の普及と発展を名目にしての友好団体であった。
1930年の第1回大会以降、W杯は大衆に支えられ、世界的な人気スポーツに発展してきた。ただスポーツイベントには多額のお金がかかる。そこで商業主義の走りとなった1982年ロサンゼルス五輪を手本に、W杯もスポンサーを集める形でどんどんと肥大化してきた。
決して商業主義は悪いわけではない。スポンサー支援で得た利益は、世界中への分配金となった。それにより各国連盟は環境面を整え育成に力を入れられることで、サッカーは普及・発展してきた。
ただ商業主義も度を過ぎれば、誰もが楽しめるものではなくなる。近年はチケットの高額化は止まらず、一般大衆には高根の花となった。結果的に、この100年の歴史で最もサッカーの発展を支えてきた層が「持たざる者」として締め出され、「持つ者」だけが楽しめるものへと二極化への分断が進んでいる。
今回のW杯事業の切り売り問題を、町の運動会に置き換えれば理解しやすい。
100年続く誰もが気軽に楽しめた町の運動会。当初は地域の人たちの交流や親睦が名目だった。
最初は手弁当でやっていたが、何かと経費がかかる。そこで途中から広告看板で収益を生み出すようにした。そのお金で待遇や環境面が整えられ、より運動会の出し物や演出が増えた。あぁ良かった。
だが、一度覚えた商業化は歯止めが利かない。会場観戦は完全有料化へ。そこはチケットを買える者かスポンサー向けのイベントとなる。公式ライセンスの物販や放送権利も売り出した。これが当たった。どんどんお金が入ってくる。
そこで何が起きたか? 本来大事にすべきだった当初の理念は完全に消滅する。町の人(大衆)は誰もいなくなり、お金目もうけのビジネスの道具というだけの装置となる。そこに魂はなく、あるのは欲だけだ。
「不易流行」という言葉がある。
時代に関係なくいつまでも変わらない本質的なことを大切にする。その中で新しいことを取り入れ、時代や環境の変化に応じていくというものだ。
W杯は時代に応じて変化を取り入れてきた。だが、失ってはいけないものもある。誰のためのW杯なのか? そこは一部権力者のためのものではない。サッカーを愛する人たち誰もが楽しめる大会であること。人種、言葉、宗教、貧富などさまざまな壁なく、平等であるべきもの。それこそFIFAが最も寄与すべき「普及・発展」に他ならない。
UEFAはこうコメントもしている。
「世の中には、売るにはあまりにも大切なものがある。FIFAワールドカップはサッカーのものだ。これからもずっとそうだ」
FIFAは慌てて釈明したものの、私からもあえて強い言葉で、インファンティノ会長に言いたい。
W杯は売り物ではない、恥を知れ。【佐藤隆志】




