スペイン、タイ、スウェーデン、イラン。12年にわたり海外でプレーを続ける異色の日本人選手がいる。MF杉田祐希也(30)。現在は、イラン1部フーラードでプレーしている。

サッカーのFIFAランクは日本は20位でイランはアジアで2番目の24位。イランと言えば各国からの経済制裁で国際社会からの孤立が深まっているイメージが強いが、杉田はイランの生活に「インフラもしっかりしていて、サッカーもサポーターの熱が高く、設備もいい。遠征はプライベートジェットですし、バスで2時間移動はないです。中堅以上のクラブは、プール、ジム、サウナ、全部あります」と明かした。イラン代表は国内の選手も多くおり、イラン代表の選手と対峙(たいじ)できることに、やりがいを感じている。

杉田のサッカー人生は、一見、無謀とも思える挑戦の連続だ。高校までは柏レイソルのアカデミーでプレーし、同期にはDF山中亮輔(30=セレッソ大阪)がいた。トップに昇格できず仙台大へ進学。大卒で再びJリーグを目指す選択肢もある中で、杉田は「いち早く海外に行かなくちゃ」と、入学してわずか4カ月の8月で大学を中退し、スペインのトライアウトへの挑戦を決めた。もちろん、両親は大反対。それでも決意はぶれなかった。

トライアウトで杉田のプレーに目を付けたのが、バレンシアでGM経験があるハビエル・スビラッツ氏だった。同氏の導きで、12年夏にスペイン4部ホベ・エスパニョールでプロ生活をスタートさせた。当時の月給は600ユーロ(約9万円)。食事付きの住居はクラブが用意してくれた。

スペイン語はまったくできなかった。電子辞書で勉強したが、コミュニケーションが取れず、チームのミスの責任を、いつも押しつけられた。「今でも悲しかった気持ちを覚えています。言い返せないしメンタルは落ちますよ」。

それでも独学で勉強を続けた。ある日、ミーティングで監督から叱責(しっせき)を浴びた際、杉田はつたないスペイン語で、自分の意見を口にした。そのとき、チームメートから「よく言った」と拍手が起こり、怒っていた監督も笑顔になった。そこから一気に、チームにうち解けた。「欧州は自分の意見を伝えることができないと、ダメな環境。よくできたなと思います。今は、しっかり自分の意見を伝えます」とコミュニケーションの重要性を口にする。

13年夏にはスペイン2部エルクレスへステップアップした。2列目でドリブル突破とスピード、柏アカデミーで培った足元の技術を武器に存在感を放った。対戦相手のバルセロナのBチームには、神戸MFサンペールもいた。

2部の試合とは言え、著名人も観戦するのがスペイン。13年12月、当時、バルセロナ所属のDFピケが、SNSで「ムルシア対エルクレスの試合を見ている。日本人のスギを気に入った。素晴らしいクオリティー」と絶賛した。

「試合後に、チームメートから、ピケがツイートしているぞ、と言われて。その後、チームの対応が少し変わってすぐに記者会見しました(笑い)。契約も5年契約で結び直してサインして」。ここからスペイン1部への華やかな道が見えたはずだった。だが、順調にいかないのも人生。膝の負傷とクラブの給料未払いもあり、15年夏に退団した。

その後はJクラブで練習参加をするも、準備不足で体が動かなかったこともあり、契約まで至らなかった。新天地を求め、タイでトライアウトを受け、16年にタイ1部パタヤ・ユナイテッドでプレー。翌17年にも、今度はスウェーデンでトライアウトに挑み、スウェーデン2部ダルクルドの契約を勝ち取った。ダルクルドでは、主力に定着しチームも1部昇格。スウェーデン1部でもプレーし、18年夏にイランのトラーク・トゥールから好条件のオファーが届き、イランへの挑戦を決めた。

「イランだったらアジアでもサッカーはトップレベルの国なのでいいかなと。悩んだけど、行くことに決めました」。日本人初のイラン1部でプレーする選手になった。

その後もスウェーデンのIKシリウスを経て、現在はフーラードでプレーする。今年で30歳。欧州に飛び込んで12年、プロ生活を続ける。トライアウトの綱渡りでのサッカー人生も「海外に行けば、なんとかなりますよ」と笑い「ただ、もう1回、人生をやり直しても、海外飛び込むと思います」と言い切る。「日本では体験できないし。ワクワク感がたまらない。特に、スペイン2部では1部に行ける夢もあって。サッカーの国でサッカーやっている感じがした。4部でも観客がいて観戦してくれて、そういう環境でできて、楽しかった」。

スペインとスウェーデンではポゼッション、イランでは超カウンターの応酬と、各国のスタイルを経験したのも財産だ。今後の夢を聞いてみた。「将来的には日本のJリーグでもやってみたい。最初の1年間、資金面で援助してくれた両親には恩返しができていない。両親や友人に、自分のプレーを生で見てもらったことがないので、Jリーグでプレーする姿を見せたいという思いはありますね」。

イランでのプレーの後、杉田が向かう先はどこなのか。今後の新天地にも注目だ。【岩田千代巳】