【ドーハ29日(日本時間30日)=佐藤成】大岩ジャパンがパリ行きを成し遂げた! 日本は勝てば最終予選突破が決まる準決勝でイラクを2-0で破り、8大会連続12度目の五輪出場を果たした。前半28分にエースFW細谷真大(22=柏)の2試合連続弾で先制すると、同43分にはMF荒木遼太郎(22=東京)が加点。危なげなく五輪切符をつかんだ。強い勝利への執着心を持つ大岩剛監督(51)が「勝つ組織」を作りあげ、見事に目標を達成した。

試合終了の瞬間を、指示エリア最前線ではなくベンチで迎えた大岩監督は、ポンポンポンと手を3度たたいて羽田コーチと抱き合った。8大会連続の五輪。すぐスタッフが集結し、歓喜の輪ができた。「率直にホッとしている。ただ、もう次の試合に向けて準備で頭がいっぱい」。勝ちを追求し続ける男の本心だった。

重圧をはねのけた。切符のために重視したのは一体感。開幕前のミーティングでチーム発足以来招集してきた人数「86」を強調し、合言葉も授けた。「23人全員で」。批判も恐れず、初戦から先発を7→7→10→2人と変幻自在で、フィールドプレーヤー全員に出場経験を積ませた。控え組に「お前らも試合を直接、勝たせることができる」と声をかけ目線を合わせ、不満分子を生み出さなかった。

勝ちへの執念は30年以上前から変わらない。親友であるA代表の名波浩コーチ(51)は清水商(現清水桜が丘)時代を振り返る。当時「最強」と称されたチームは夏の総体であっさり全国優勝。その祝勝会中、大岩少年は「俺、全部勝ちたいんだよな」とつぶやいたという。その言葉に引っ張られるように全日本ユースも制し、公式戦無敗で冬の全国選手権へ。名波氏は「勝つ意欲ってだんだん薄れるものだけど、あいつはまだ勝ちたいのかと思ったね」。大人になっても、大岩監督はプロ人生で名古屋、磐田、鹿島を渡り歩き、リーグ3連覇を含む主要タイトル8冠。監督としても18年にACLを制覇するなど勝ち続ける人生を歩んだ。

勝利への執着心で若きチーム全体を鼓舞した。今大会も判定への異議で警告を受けた熱量で「本当に熱い監督。絶対五輪に連れて行きたい」と選手を心酔させる。不調だった細谷も我慢の起用で目を覚まし、準々決勝から2連発。控え組と目されていた荒木も先発起用し、要所の2試合連続で得点に絡ませた。負傷離脱者もゼロで、選考基準「タフで健康」を中2日でも保った管理能力は際立った。

東京五輪後の21年。Jクラブから魅力的なオファーも舞い込んだ中で「日本の未来のため」とアンダー世代の監督を選んだ。約束通り、パリへの道をつないだ試合後の第一声も「決勝に進めて大変うれしい」。まだまだ高みへ連れていく。

信念は220年前にフランス皇帝となったナポレオンの名言とも重なる。「勝利は最も忍耐強い人にもたらされる」。主力の欧州組を欠きながらも愚痴をこぼすことなく大願成就。視線は優勝、そして56年ぶりの五輪メダルに向いている。