広告マーケティング・プラットフォーム事業などを手掛けるフリークアウト・ホールディングスと、アスリートのマネジメントと社会貢献活動を支援するUDN SPORTSが8月27日、東京・六本木のグループ本社で合同イベント「NEXT STAGE 2026~企業の未来を創る、SPORTSの未来を創る~」を開催した。
フリークアウトHDの本田謙(ほんだ・ゆずる)代表取締役社長Global CEO(51)や、UDNの伴野力哉(ともの・りきや)代表取締役社長(45)ら経営陣が登壇。ちょうど1カ月前の7月27日に、UDNとエージェントおよびマネジメント契約を締結したサッカー指導者、日本代表の森保一監督(58)を招いて、本田社長をモデレーターに、スタートアップ経営者、アスリート、クリエイターと公開討論を行った。
陸上男子100メートルで日本人初の世界選手権2大会連続ファイナリスト、サニブラウン・ハキーム(27=東レ)も着座するなど異色の掛け合わせが実現した中、本田氏が限られた時間の中で場を回しながら、森保監督がリーダー像や「最高の失敗」など経験談、SAMURAI BLUEを率いて8年超で確立させたマネジメント論を、惜しみなく明かす充実の時間となった。
盛況のうちに幕を閉じた後、本田社長が日刊スポーツの単独インタビューに応じ、スポーツは「不滅」と期待を込めた。同社としては珍しい、メディアを集めてのイベントを開催するに至った理由、UDNを5月にグループ化したことによる展望などを語った。
本田氏は「あっという間でしたが、今回のイベント、非常に新鮮で面白かったですね」と目を細めた。「我々、フリークアウトのような会社…いわゆる技術屋というか、普段は裏方のシステムを作ったり、目立つようなことはあまりしていなくて、でもやってきた仕事としては誰もが知っているような、例えばタクシー『GO』や『TVer』の広告などを手掛けてきた会社です。でも基本、表には出ていなかったので、本当に新鮮でしたね」と振り返った。
「一方で」と続けて紹介したのは、傘下の仲間だ。「我々のグループには3年前からUUUMがいます。日本でYouTubeを楽しんでいる方々に高い知名度を誇りますけど、かと言って、こちらも前面には出ない。発信力あるクリエイターを数多く支えていて、会社名もよく配信の中で口にしてもらっていますが、UUUM自体が表に出るわけではありません。そんな僕たちのグループに5月、著名なアスリートをたくさん抱えるUDNがジョインしてくれたことで、ある意味、表に出る機会が生まれ、このように記者さんも招いたイベントを開くことができました。喜んでいただけたのであれば、本当にうれしいです」
フリークアウトは、本田氏が2010年10月に設立した。翌11年に日本で初めて国産の広告配信プラットフォームを事業化し、インターネット広告のリアルタイム取引を可能にした企業。そんなアドテクノロジーカンパニーが、スポーツ界と組む-。いったい何が生まれるのか。
「まず今回のイベントとしては、伴野さんから話をもらった時、いろいろ話しました。こうして記者さんたちにお越しいただくのであれば、せっかくなら『フリークアウトならでは』『フリークアウトにしかできないこと』をやりたいよね、と。そこで、アスリート×YouTubeクリエイター、プラス、うちは投資もやっていて、若い会社さんを多く育ててきた実績もありますので、スタートアップ経営者の方々にもお声掛けして。異種格闘技戦、じゃないですけど、みんなで議論して、実はみんな同じテーマで悩んでいたんだ、みたいなことを話せたら面白いんじゃないかなと思いまして。そうなると、必然的に自分がモデレーターになって、皆さんと一緒に、森保さんにたくさん質問をぶつけてみようね、という流れになりました。結果的に、想像以上の盛り上がりになったと思っています。序盤から、森保監督も前のめりに話してくださって、積極的に絡んでくださって。うれしい限りです」
イベント冒頭では、本田社長はこう切り出していた。
「会社を15年以上やってきて、いよいよ我々でしか成し得ない課題感、テーマが出てきまして。それに対して立ち向かっていける状況になったと思っています」
現状のステージを表現した上で、新たな挑戦をスポーツ界に見出した。エージェント業務の新たな形を思い描いていた。
本田氏「現代のキーワードと言えばAI。そして『AIエージェント』ですよね。これ、実はまさにフリークアウトが最初に始めたことなんです。我々は創業以来、広告業界の課題解決をする事業に取り組んできました。そして3年前に、YouTubeクリエイターのエージェント業を手掛けるUUUMも加わった。課題を解決しようと、我々が取り組んできた事業。創業以来の広告代理店業、広告エージェンシーですね。そして3年前に、YouTuberのエージェント業を手掛けるUUUMも加わった。トップクリエイターが動画制作などのオペレーションに集中してもらえるよう、彼らの周りのあらゆる業務を代理で…つまりエージェントとしてやってきましたが、このビジネスこそ、もっとテクノロジーが入って変わっていくべき、効率を上げていくべき、というチャンスのタイミングでした。互いの相性も良く、僕たちフリークアウトとしても強みを生かせて、インフルエンサー・マーケティングなど新たな広告事業を展開することができた経緯があります」
その中で、唐突にも聞こえた「フリークアウト×スポーツ」の発表。本田社長には、ビジョンがあった。「エージェンシービジネスをテクノロジーで変革する」。これはUUUMを通して磨かれ、UDNのジョインによって、アスリートの領域へ拡張されていくことになる。
「スポーツの世界を、アスリートのエージェント業務を、テクノロジーやAIでサポートをしていく。そこに本気で取り組んでいく会社は、世界レベルでも他に例がないと思います」
AIによって仕事が奪われる、と危惧される時代。反対に「テクノロジーを味方につけ、むしろ武器にして、世界を変える側に回る」という攻めの姿勢が、グループ化の前提にあった。
5月にフリークアウト・グループ入りしたUDN SPORTSは、セレッソ大阪MF香川真司を第1号に、直近のFIFAワールドカップ(W杯)日本代表としてはDF冨安健洋やMF佐野海舟が所属。さらにはサニブラウン、バドミントン男子の桃田賢斗ら日本のトップアスリート約180人が名を連ねている。伴野社長が突き詰めてきたアスリートファーストの理念、選手のパフォーマンス最大化を強固にするため、両社は手を携えた。
UDNは、選手が競技に専念できるようチームとの契約交渉、競技環境の整備、ブランディング支援、スポーツを通じた社会貢献活動などを実現してきた。個々のニーズに応じた最適なサポート、所属選手一人ひとりのキャリアと利益を最優先にエージェント事業を進めてきたところに、フリークアウトが参画した。
かねて親交のあった伴野社長とのタッグ。伴野氏も、人生で尊敬する人物3人の中に本田氏を挙げるなど良好な関係性で、スポーツとAIの融合が生み出す未来を、ともに見る。
時代に合ったアスリート関連広告、SNSマーケティングの展開強化、AIを活かしたアスリートパフォーマンスデータの活用。フリークアウトが得意とする広告の最大化、UUUMのインフルエンサーアセット、ノウハウを活用した情報発信の多角化と最適化、グローバル展開の戦略的強化-。まだ合流3カ月だが、期待される相乗効果は多岐にわたる。
本田氏「スポーツやエンターテインメントというものは、決してAIに代替されず、失われることのない『不滅の人間活動』だと思っています。AIにまくられることのない世界。例えば、将棋や囲碁の世界。AIが人間に勝ったとしても、藤井聡太さんという圧倒的なヒーローが生まれて、ファンを熱狂させています。人間界で最強であれば、十分にエンターテインメントとして楽しめることが分かっているわけです。スポーツも同じ。人間が、体を使って、魂をぶつけ合って勝敗を争う。永遠のエンターテインメント。これはもう、フリークアウト・グループとして、スポーツやアスリートを大事な大事な商品として、彼らの価値を最大限に高めるお手伝いをしていきたいな、と思っているところです。AIによって最適化、最大化していくことが、我々の仕事だなと」
スポーツの可能性を説いた上で、実際にフリークアウトが持つSNSやアドテクノロジーの知見を生かしていく。
「YouTuberクリエイターもアスリートも同じです。VTuberがどれほど進化しようとも、おいしそうに食べている姿は、やはり人間にしかできないこと。クリエイターさんたちとよく話しているのは『人間らしいことをやってください』と。その人間が、おいしそうに食べる裏にストーリーも持っているから、コンテンツになり得ていく」
この先、具体的なシナジーとして考えているのが、UUUMが所有する「トップクリエイターの自己表現ノウハウ」をアスリートに還元することだ。
「クリエイターが持つセルフブランディングの力は、一流の中の一流。それをプロのアスリートが現役のうちから持つべきだな、と思えば、もちろん紹介します。正直、クリエイターの方が器用な面はありますから。ただ、最もいい方法は、我々が変に関与するよりも今回みたいなイベントを通して、直接、クリエイターとアスリートが仲良くなってくれればいい。そういう場を提供するだけでいいんです、僕らは。その後、双方では何かを解決できなかった時に、我々がエージェントとして入っていければいい。技術面でも後押しできますし、反対にUDNのアスリートマネジメントからUUUMが学ぶことも多いはず。アスリートという、特定の分野で強烈に尖っている選手の面倒を見ている方たちですから。少なくとも日本においては唯一無二のグループになれているんじゃないかな、と思っています」
アスリートのデュアルキャリア支援も始めている。現役中に始める、スタートアップ起業や経営参画。今回のイベントにも、それを実践しているバスケットボール女子のオリンピック日本代表、かつ起業家の馬瓜エブリンが駆けつけて、森保監督と意見をかわした。
本田氏は「実は、フリークアウトの投資先なんですよ」と明かす。
「エブリンとは、本当にたまたまというか、UDNがジョインする前から仲良くさせてもらっていて。もちろん、ジョインする前からもUDNの伴野さんとは個人的に関係を持っていて、いろいろと会話をしてきたんですけど、その中でセカンドキャリアに関する話も、多くしてきました。そこに加えて、エブリンは『デュアルキャリアだ』と。現役のうちからスタートアップの経営を始めて、ということに単純に興味を感じて。よくよく話も聞いてみると、事業のセンスもすごくあった。選手ならではの課題感。これは投資のしがいがあるな、支えられるところは僕らもやりたいな、という印象を強く持ったので投資させてもらいました。そして今回みたいなイベントがあった時、コネクションの中でも真っ先に呼びたいなと思った方が、エブリンさんでした。あとは、ハキーム君ですね」
2年ほど前から米ニューヨークで会うなど、親交を温めてきたサニブラウン。本田氏は、その知性とキャリア形成を絶賛する。
「彼は非常に賢い。アメリカの大学で、厳しい教育と座学、学業の成果もしっかりとこなした上で競技を続けてきましたから。日本の部活、とは明確に違う、アメリカ流のセカンドキャリアとビジネスの知識を兼ね備えている。彼もまた現役のうちから動いて発信してくれているので、彼が日本の陸上界の、スポーツ界の新しいロールモデルとなって、次代に道を示す挑戦を全力で支えていきたいですね」
ここに加わった“最後のピース”が、サッカー界で最も発信力のある日本代表監督、森保氏だ。今後、同じグループの仲間として共闘していく。イベント中には、代名詞といえる「試合中のメモ」について、エンジニアが本領の本田氏は興味津々だった。
「もう一定の期間、僕がベタ付きして、メモの取り方、まとめ方、ミーティングや情報収集の仕方まで見て、専用のAIツールを作って差し上げたいくらいです(笑い)。世の中にはAI議事録ツールみたいものはいっぱいありますけど、それとは違う方向の、スポーツの指導者や選手が使えるツールの開発をしたり。アスリート周りのマネジメントに必要なAIツールを作ってもおもしろい。普通の会社ではビジネスにしにくいですけど、我々だったらサポートする為に考えて行動する事ができる、そんなポジショニングを僕らは取れると思います。超一流のアスリートというテスターを抱えているのは強みでしょうね。また、森保監督とはディスカッションを通して、楽屋でもお話しさせてもらって、本当にブレない、格好いい方だなと思いました。この質問にはこう合わせる、わけではなく、一貫したものを持っておられた。さすが。森保さんも『皆さん、答えをお持ちなんじゃないですか』と言いながらも、クリエイターやスタートアップ経営者から質問を受けつけて、そのやりとりから、双方から学ぶことも多かったですし、いい時間になりました。時間、全く足りなかったですけど(笑い)。いずれにしても、スポーツ科学やデータ解析という世界においては、プロのデータサイエンティストを介さずとも、膨大なデータをAIに投げ込めば最適な答えが返ってくる時代になる。アスリートの上達スピードを爆発的に早めるためのAIツール開発も考えていきたいですね」
アスリートが、競技力だけではない自らの価値を社会に発信していく。UDN SPORTSが培ってきたマネジメントの根源と、フリークアウトがタッグを組めば、可能性は自然と高まる。日本発「アスリート・バリュー最大化カンパニー」へ。
「誰にも真似できないグループになれている実感がありますし、もっとなっていきたい。アスリート、クリエイターのポテンシャルを極限まで引き出し、彼らの価値を最大化する。AI時代において、人間が人間らしく輝くためのお手伝いをしていきます。今、あらゆる人間の仕事が影響を受けるAIで、みんなが『AI』ではなく『AIエージェント』と言い出しています。これは、エージェントの仕事をしている人間が最もAIの影響を食らって仕事がなくなる、という見方もできます。AIを導入しない、旧態依然としたエージェント業務をやっている人や会社は、世の中の動きに恐怖を感じているかもしれませんが、我々は、最初からグループでAIを取り込んで人と共にエージェント事業をやっていく。むしろ、チャンス。自分たちが世界を変える側に回る感覚でやってほしいし、もしかしたらUDNだけではできないことも、我々と一緒であれば高め合っていける」
アスリートの価値を最大化するAI時代のエージェント像を定義し、スポーツビジネスの新常識を示すべく走り出したフリークアウトとUDN。「NEXT STAGE 2026~企業の未来を創る、SPORTSの未来を創る~」。まさに、会見のタイトル通りの挑戦から目が離せない。【木下淳、佐藤成】



