ワールドカップ(W杯)はお祭りだ-。ベテランカメラマンの今井恭司氏(72)は今日12日、10大会目の現地取材のためにロシアへ向かう。72年からサッカーを撮り続け、念願のW杯デビューは82年スペイン大会。ジーコ、プラティニ、マラドーナら世界のスーパースターをフィルムに収め、低迷期から日本代表の活躍を願い続けた。昨年8月、カメラマンとして初めて日本サッカー殿堂入りした今井氏に、W杯の魅力と楽しみ方を聞いた。

 70年代からW杯を取材し続ける日本人カメラマンも多い中で、今井氏の初取材は意外と遅かった。74年西ドイツ大会は現地からのフィルム処理などの「受け」、78年アルゼンチン大会は直前に病気で入院して断念した。82年スペイン大会、待望のデビューになった。

 今井 スペイン行きを前にしてワクワクでした。それまで写真や、テレビだけでしたから。当時は日本とは別世界。4年に1回、本当にお祭りでしたね。

 全チームを撮るため、綿密にスケジュールを立てて動く。勝敗を予想しながら撮り逃しがないように。しかし、サッカーだから予想が外れることもある。

 今井 ブラジルは準決勝で撮ろうと思っていたんです。2次リーグでイタリアに負けて…。ショックでした。でも、次の86年大会は準々決勝のブラジル対フランスが撮れた。9大会でベストゲームだと思います。

 取材5大会目の98年フランス。日本が初出場した。70年代から日本代表を撮り続ける今井氏だけに、喜びは想像以上。アルゼンチン戦を撮る手が震えた。ファインダーが涙で曇った。

 今井 何だろう。すごい感覚でした。以前は「W杯で日本を撮ることはないだろう」と思っていた。ピッチの日本選手の先に、夢破れた多くの選手、協会の人たち、ファン…。それを思うと、特別な試合でした。

 日本が6大会連続出場して、W杯はお祭りから日常になってきた。それでも、特別な大会であることは変わらない。10大会目も、今井氏の心はワクワクだ。

 今井 やっぱり、楽しみですね。国中で開催するから移動は大変だけど、サッカーだけでなく文化も楽しめるのがW杯。やっぱり、僕らは4年周期で仕事をしていますから。もちろん、日本を見られるのもうれしい。活躍してほしいです。

 半世紀近くもサッカーを撮り続けてきた「レジェンド」は、W杯に目を輝かせる。世界が注目する4年に1度の「お祭り」が、いよいよキックオフされる。【荻島弘一】

 ◆今井恭司(いまい・きょうじ)1946年(昭21)1月11日、新潟県柏崎市生まれ。東京写真大(現東京工芸大)卒業後、写真家のアシスタントを経て広告写真のカメラマンとして活動。72年からサッカーカメラマンとして日本代表や日本リーグを取材する。85年スタジオ・アウパを設立。自ら撮影するかたわら、後進の育成にも取り組む。昨年8月、日本サッカー殿堂入り。