新型コロナウイルスとの闘いが落ち着きを見せ始めたスペインでは、新たな戦いが再始動しようとしている。リーグ戦無期限延期から約2カ月後の5月23日、スペイン政府がついにリーグ戦再開にゴーサインを出した。

これにより久保建英(マジョルカ)、乾貴士(エイバル)がプレーする1部リーグ、香川真司(サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)、柴崎岳(デポルティボ)、山口瑠伊(エストレマドゥラ)がしのぎを削る2部リーグはともに6月半ば、約3カ月ぶりに再開されることが決定した。

この中で昨夏、21年6月30日までの2年契約でかつてより夢見た地スペインへやって来た香川について、来季サラゴサでのプレー続行が難しい状況にあるという報道が出ている。

サラゴサ入団時、ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドといった欧州の名門クラブでプレーした日本人「KAGAWA」の入団とあり、サラゴサ市民に手厚い歓迎を受けた。

序盤こそ実力を発揮しサポーターを魅了した香川だが、時間の経過とともに、フィジカル面の問題やパフォーマンスの低下、ソロが調子を上げたこと、冬にプアードやブルギが加入したことなどにより、徐々にスタメンの座を失っていった。それでも3月にはビクトル・フェルナンデス監督の信頼を再び得て、新たなチャンスをもらったがうまく生かせず、新型コロナウイルスの感染拡大によるリーガ無期限延期を迎えることになった。それまでの成績は2部リーグ23試合(先発18試合)出場、2得点1アシストとなっている。

ロックダウン(都市封鎖)の最中、香川の来季サラゴサ残留が困難、さらには米国やカタール移籍の可能性があると現地メディアが報道した。退団理由に、期待されたようなパフォーマンスを見せられずスタメン落ちしていること、チームトップクラスの税込44万4000ユーロ(約5328万円)という高額な年俸を受け取っていることが挙げられている。

現地メディアは、サラゴサが1部に昇格できない場合、香川退団が濃厚であり、1部昇格を成し遂げた場合も、来季の年俸が3倍に跳ね上がる契約が存在するため、同様に残留が難しいと伝えている。

なぜならサラゴサは来季、1部に属した場合、サラリーキャップ(移籍金の減価償却費及び選手年俸)がわずか1800万ユーロ(約20億7000万円)に設定されると推測されているため、香川の高額な年俸はクラブにとって大きな負担となってしまう。

その一方、香川には残留に向けた大きなアドバンテージもある。それは今年に入り最も輝いた試合が1部のクラブとの対戦となった国王杯のマジョルカ戦とレアル・マドリード戦だったこと。特にレアル戦で香川は、0-4で敗れた中、欧州の強豪に所属していた時の姿をほうふつさせるハイパフォーマンスを披露し、両チームの中で最多5本のシュートを打ち、チームで最も評価された選手となっていた。

これにより香川について、スペースが少なく肉弾戦を求められる2部のサッカーよりも、1部でプレーする方が輝けるという意見が出ている。これは1部に昇格した場合、香川がサラゴサでプレーを続けるための重要なファクターになるはずだ。

香川の戦場となるスペイン2部リーグは22クラブで構成され、全42節を戦うため、1部に比べ長丁場でタフな戦いを強いられる。1部に昇格できるのは3クラブ。そのうち上位2クラブが自動昇格し、3~6位はホームアンドアウェー形式の昇格プレーオフを戦う。3位と6位、4位と5位が準決勝で対戦し、勝ち抜いた2クラブで決勝戦を戦い、昇格最後のひと枠を勝ち取る。

日本人所属クラブの現在の順位を見てみると、香川のサラゴサは勝ち点55で1部自動昇格圏内の2位につけている。首位カディスとの勝ち点差はわずか1、3位アルメリアとの勝ち点差は5となっている。

岡崎のウエスカは勝ち点50で1部昇格プレーオフ圏内の4位。自動昇格圏内の2位サラゴサとの勝ち点差は5、プレーオフ圏外の7位ミランデスとの勝ち点差は8。

柴崎のデポルティボは勝ち点35で19位、山口のエストレマドゥラは勝ち点31で21位と、ともに3部降格圏内の4枠の中に入っている。降格圏外の18位アルバセテの勝ち点はデポルティボと同じ35である。

現時点(5月30日)で2部リーグ再開の明確な日程は出ていないが、昨年12月に人種差別問題で延期された第20節Rバリェカノ対アルバセテが、6月12日に先陣を切って開催される予定である。そして6月14日の週末に第32節が行われ、7月19日の週末に第42節が開催されてレギュラーシーズンを終えることになる。その後、8月2日の週末に1部昇格プレーオフがスタートする。

香川は来季、チームの1部昇格の有無にかかわらず、難しい状況に置かれていると伝えられている。しかし残り11節でネガティブな現状をひっくり返す時間と実力は十分にある。

香川とサラゴサ、「生き残り」と「昇格」を賭けた戦いがもう間もなく再始動する。【高橋智行】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)