東京五輪(オリンピック)の陸上で金メダルを目指す男子400メートルリレーに万全な状態で挑むため、100メートルと200メートルの出場を原則1種目とする代表選考案に関し、個人2種目出場の可能性を条件付きで残すことが20日、関係者の話で分かった。

日本陸連の男子短距離を担当する土江寛裕五輪強化コーチ(45)は、詳細は伏せた上で「100メートル、200メートルで、400メートルリレーを上回る期待があるなら例外になる」と説明。すでに代表候補選手のコーチには相談をしたという。関係者によると、個人2種目出場の条件は100メートル、200メートルともメダルを期待できるタイムを期間内に出すこと。過去のメダリストのシーズンベストなどを参考に、タイムは100メートルは9秒8台、200メートルは19秒8台の模様。また日本選手権での2冠なども含まれるという。

今月中旬には日本陸連の麻場一徳強化委員長(59)、土江五輪強化コーチが渡米した。米フロリダ大を拠点とするサニブラウン・ハキーム(20)を指導するマイク・ホロウェイ・コーチと会談した。「建設的な話ができた」と土江コーチ。サニブラウンはメダルを狙える実力を証明できれば、個人で2種目出場する道が開けることになりそうだ。

個人2種目出場に「メダル」級の高い基準を設定する背景は、過去の世界大会における日本勢の個人2種目は、リレーの大きな懸念材料だったこと。15年世界選手権は高瀬が、17年世界選手権はサニブラウンが100メートルと200メートルの2種目に出場。しかし、世界大会の反動は大きく、その後の400メートルリレーは欠場を強いられた。昨秋の世界選手権でも、100メートル自己記録9秒98の小池が両種目で代表となった。しかし、小池は400メートルリレー予選時は本調子に程遠く、決勝は多田への交代を余儀なくされていた。事実上、個人2種目出場はリレーを“捨てる”ことになっていた。

加えて世界選手権以上に、東京五輪は日程が極めて過酷になっている。

8月1日 100メートル予選

8月2日 100メートル準決勝、決勝

8月4日 200メートル予選、準決勝

8月5日 200メートル決勝

8月6日 400メートルリレー予選

8月7日 400メートルリレー決勝

また会場となる国立競技場のタータン(走路)は反発が強い。好タイムが見込まれる半面、体の負担も大きい。五輪特有の雰囲気もある。精神的な負担も過酷。世界選手権では6人のリレーメンバーが登録できるが、東京五輪では1人減る。もしも故障者が出れば、戦力ダウンは避けられないこともある。

過去に経験のない注目度の中、戦うことになる自国開催のオリンピック。大きな期待、重圧を背負う中、少しでもメダル数を増やせる現実的な枠組みを作るのも日本陸連の役目になる。トラック種目で金メダルを現実的に狙えるのは、男子400メートルリレーに限られるのは事実。とはいえ、男子400メートルリレーの各国のレベルアップは著しく、メダルが安泰ともいえない。昨秋の世界選手権男子400メートルリレー決勝で、日本は37秒43のアジア新記録を樹立するも、結果は銅メダル。個人種目の過剰な負担により、ベスト布陣で挑めなければ、東京五輪でメダルにすら、手が届かない可能性も十分にある。

ただ個人2種目とも、400メートルリレーと同じようにメダルを狙える実力があるのであれば、出ない理由はない。代表選考案は3月の理事会で承認され、正式に決定する。