フェミニズムという言葉を聞いたことがあるだろうか。

日本では、なかなかなじみがないかもしれない。それとも、私はフェミニストだという人もいるかもしれない。フェミニストは、全ての性が平等な権利を持つべきだという理由から女性の権利を主張する行為を支持する人のことだと、オックスフォード英語辞典で定義されている。例えば、英国の俳優エマ・ワトソンは、フェミニストとして活動していることは有名だ。


松尾ポストさん(下)と筆者(左上)。右上は共通の友人坂口氏
松尾ポストさん(下)と筆者(左上)。右上は共通の友人坂口氏

実は私も最近まで、この言葉の意味とかイメージをあまり深く考えていなかった。しかし私自身も女性のカラダのことや、女性アスリートのこと、ジェンダーギャップ指数のことなどを、このコラムを含め書いてきている。そんな自分の活動から、この言葉にたどり着くのは自然なことだったのかもしれない。

昨年12月に世界経済フォーラムが「Global Gender Report 2020」を公表した。経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータで構成されているが、そこで示されたジェンダーギャップ指数(GGI)で日本は、調査の対象となった153か国のうち121位。G7の中で最低とされた。そんな事実から、さらに人々の権利について思考を巡らせていた。

自分のアスリートとしての経験から、男女一緒に練習する競泳では、レースでは絶対勝てなくても練習では勝てることもあった。それでも「男女の差を感じない」と言ったらうそになる。女性特有の月経には大いに悩まされた。国際舞台に立った時、多くの国や人種、文化、宗教に触れてきた。外国の友人ができると、さらに深くそのことを知っていった。「さまざまな人がこの世界で、社会で、いろんな思いで競技をしているんだ」と感じていた。これはまさに衝撃で、現役時代にスポーツでベストを尽くすことと同じくらい学んだことでもあった。

そんな現役時代と引退後の自分の経験と人間関係の中から、多くの方の協力を得て、2017年にコラムで自身の現役時代の月経の経験を書くことになった。このコラムをきっかけに、私自身もその意識が高まった。


そんな自分に最近とてもフレッシュで、素晴らしい出会いがあった。ヨガウエアの会社で働いていた友人から、松尾ポスト脩平さんを紹介された。オンラインで「初めまして」の会話をした。とても物腰が柔らかく、オープンで、生まれたばかりの息子さんがいて、今はアメリカにいる。普段は日本で働いているのだ。このジェンダーに対しての話で情熱を感じたし、男性だからこそフェミニストとして活動することの意義を話してくれた。

まず、彼の名前に「ポスト」という名前が入っている。例えば、日本人女性が外国の方と結婚すると外国の姓が入っていることがあるが、松尾さんは自身の名前に結婚したパートナーの名前を入れた。「男性なのに?」そう感じる方もいると思うが、実は、彼は冒頭に話したフェミニストであると公言している。2017年にアメリカ人と結婚し、日本で姓を変えた際にジェンダーバイアスを感じたことをきっかけに、「フェミニズムは女性のみが関わる社会運動ではなく、男性も関わる必要がある。フェミニズムは女性だけでなく、男性も解放することであり、日本の男性にも理解してほしい」と考えている。


著書を持つ松尾ポストさん
著書を持つ松尾ポストさん

その第1歩として、まだ英語でしか出版されていないが、「I Took Her Name」(彼女の苗字を取り入れた)というタイトルの本を2020年12月に出版しているのだ。私も読んでいるが、読みやすいし、「読むべき!」とも思う。

そもそも、生まれたときから「男の子らしく」とか「女の子なんだから」とか言われることが当たり前だと思って過ごしてきた。松尾さんの話を聞いていると、ジェンダーを考えて来ていない自分にも気が付く。本当の自由とは何なのか、生まれてきた性別に対しての固定概念に関係なく、ありのままに自分を表現することができる社会が存在したら、どんな人生を送れるのか。松尾さんはそう問いかける。社会活動というものだけでなく、日々できることなどが本には書かれている。

前回の「ハナことば」でSDGsについて書いたが、その中にも「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」とある。松尾さんの本を読んで、フェミニズムのことばの意味を少しでも理解していけたらと思うし、自分も社会にちりばめられている信号を見落とさないように過ごしていきたい。より考えるきっかけをくれた松尾さん、本当にありがとうございましたと言いたい。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)