アスリートだけでなく、部活動をしている学生の皆さんも、日頃から練習ノートを書いている選手は多いのではないだろうか。私も現役時代、1日の練習内容や、その日に指導されたことなどをつづっていたノートがある。

このようにコラムを書かせてもらったり、講演をする際に自分の過去を振り返る機会は多々ある。しかし、引退してから、現役時代に記録したノートを開く勇気はなかなか出なかった。試合で優勝した時の感情や、うれしかった事も、もちろんたくさんつづってある。しかし、過去にあった思い出したくない記憶まで掘り起こしてしまうのが嫌だったのだ。つくづく自分は弱い人間だと思う。

ずっと引き出しの奥に眠ったままだったが、「女性の身体(27日の日刊スポーツ紙面に掲載予定)」についてのインタビューを受けることになり、ピルを処方してもらった時の自分の状況をノートで確認してみた。

以前のコラムでも書かせてもらったが、2012年のロンドンオリンピックに臨むにあたり、生理を調整しようと飲み始めたピル。飲んでいる期間の日記には、ネガティブな言葉がズラリと並んでいた。言葉の使い方や乱筆さから、感情の起伏も激しかったように感じた。それがピルのせいだけでは無いと思うが、かなり追い込まれている状況だったことが伺えた。

当時は、一刻も早くピルの副作用を取り戻すために必死で、その時の状況を細かく覚えておく余裕などはなかった。そこで今回、ノートの記録を頼りに記憶をたどり、インタビューに臨むことにしたのだ。

アスリートにとって体の変化というのは、パフォーマンスに大きく影響する。そのため、自分が口にするものに関しては特に注意しなければいけないということを、この時にも学んだ。

うまく利用すれば、女子アスリートの強い味方になってくれるピル。あの時に、きちんとした知識があれば…と思わずにはいられないが、この経験が未来ある女子アスリートたちに生かされてほしいと願うばかりだ。

せっかく見る気になったノート。それ以外のページも少しのぞいてみると、試合前に書かれたページには、1日の書く量が明らかに多かった。緊張や不安な心を、少しでも落ち着かせようとしていたのだろう。選手目線の記憶がよみがえり、文章を読み進めるにつれ自然と鼓動が早くなった。

しかし、試合前に緊張している自分に対しては、毎回ポジティブな言葉で自らを励ましていた。人になかなか言えない不安や緊張を、自分自身で和らげようと頑張っていたのだ。そして、いつもピンチだと思った時には、誰かが手を差し伸べてくれていた。改めて、人に支えられて競技をしていたことがよく分かった。

今回、久しぶりに日記を読み返してみて、第三者のような目線から過去の自分を見る事ができた。当時は、当たり前の日常生活。毎日書いていて意味があるのかな、と思ったこともあったが、今となればとても貴重な過去の自分だ。思春期や成長期という、大人になるための変化が著しい時期にプラスして、アスリートという人生。今はまだ競技に対して「やり切った」という感情が強く、あまり深く振り返る気にはならない。しかし、これからの長い人生の中で、現役時代が懐かしくなり、思い返したくなった時には、またじっくりと読み返してみようと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)