あまりにも唐突に。

そしてあまりにもサラリと、高岡蒼佑(40)は言った。

「僕はもう出ないです」

格闘技大会・競拳22(1月7日、堺市産業振興センター)。デビュー2戦目となったその日、キックボクシング方式のライト級(2分3R)で権藤正一(若極連)に判定勝ち(3-0)した直後のことだった。

つい1時間ほど前まで、大勢の観衆で埋まっていた会場の片隅。すぐ側では、リングの解体作業が進んでいた。

「えっ? 引退ですか?」

番記者は耳を疑うように、互いの顔を見合わせていた。すると、こう続けた。

「目指している大会に出たくても、出られない選手がいるんです。役者もそう。次は、日の目を見ない選手をどんどん押し上げていく。そういうプロデュース作りって言うんですかね。不良ばかり集めるというのではなくて。まだまだ、くすぶっている子がたくさんいる。そういう子たちをね。夢を与えるのが好きなんです。元気になってもらいたいから。プロデュースとか、監督とか。ずっとやりたいと思っていたんです」

ギラギラしていたリング上の姿とは違う。とても紳士的に、真剣な胸の内を、丁寧に話していた。

華やかな舞台だった。映画『クローズZERO』シリーズで共演した双子の俳優・伊崎右典、央登と入場。ボクシング元WBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守氏から、リング上で「死力を尽くして頑張って下さい」と激励された。磨かれた肉体から醸し出すオーラと、周囲からの期待。会場の興奮は最高潮に達する。

デビュー2戦目とは思えないほど冷静な試合運び。1Rは相手の出方を見極め、2Rから打ち合いになった。ジャブとキックを織り交ぜながら、右のストレートで相手をダウンさせる。2Rに2つ、3Rにも2つの計4つのダウン奪い3-0の判定勝ち。圧勝だった。

「今までスパーリングをやってきた人の方が強いと。そう思い込んでいました。思い込むことも大事なんで。K-1(バンタム級王者)の黒田斗真君とか、ちょくちょく遊びに来てくれた。アキラ・ジュニア(AKIRA Jr)さんとか、レベルが高いところだから。本当は(ジムに)行きたくなかったですよ。年齢は上なのに、(実力は)一番下だから。『行きたくね~』ってね」

22年6月に格闘家としてデビューしてから2戦2勝。試合が決まれば2カ月前から節制し、厳しい練習に取り組んできた。真剣に格闘技と向き合ってきたからこそ、分かるものがあった。磨かれた肉体は、そこに偽りがないことを物語っている。

「継続して何かを続ける。練習はつらいですけど、その日、その日をクリアしていく。やっていくと、自分の中の景色が変わっていくのを感じました。整っていくというんですかね。軸ができているような感覚。(今後)格闘技をやる、やらないにしても。恥ずかしい父親ではいたくない。子供の存在は大きいですよ。『パパ、カッコいい』って思ってもらいたいですから」

確かに彼は、輝いて見えた。

それはリング上はもちろん、内面的なものもあるからだろう。

今大会はダブルメインイベントとして開催され、高岡の前に登場したのが、元俳優の遠藤要(39)だった。プライベートで不祥事があった遠藤を、リングへと導いたのが、高岡だったという。

キックボクシング方式のミドル級(2分×3R)で、しょうと(22=KYOSHIN)に3RにKO負け。試合後も起き上がれず、取材対応もできなかった遠藤についても、高岡はこう話していた。

「(格闘技を始めてから)雑念やどろどろした部分が、そぎ落とされている気がしました。話していることも変わってきて、『どうせ俺なんか』というのがなくなった。1、2Rまではポイントを取っていたと思うし、スタミナが切れても立ち上がろうとした姿を見て、『負けられない』と。そう思いました」

役者への未練もあるのだろう。少し長くなった取材。言葉の片隅に、そう感じるところもあった。

「お芝居の話もあったりして。そっちの方が響く人がいるのかな。こういう(格闘家の)経験を生かせて、何かできることもあるのかも知れない」

戦いを終えた最後のリング。マイクを持つと、観衆へこう訴えかけた。

「混沌(こんとん)とした時代ですけど、目の前の大切なものを感じてもらえれば、日本は元気になる。この時代に、力強く生きていければいい」

あまりにもカッコ良く。

あまりにもさっそうと。

彼はリングを降りた。【益子浩一編集委員】

判定勝ちの高岡(中央)は競拳ラウンドガールの。左から沙姫、希望、1人おいて未来、大和志保子の祝福を受ける(2023年1月7日撮影)
判定勝ちの高岡(中央)は競拳ラウンドガールの。左から沙姫、希望、1人おいて未来、大和志保子の祝福を受ける(2023年1月7日撮影)
2回、権藤正一(左)に右を放つ高岡蒼佑(2023年1月7日撮影)
2回、権藤正一(左)に右を放つ高岡蒼佑(2023年1月7日撮影)
3回、権藤(右)からダウンを奪った高岡蒼佑(2023年1月7日撮影)
3回、権藤(右)からダウンを奪った高岡蒼佑(2023年1月7日撮影)
判定勝ちの高岡蒼佑はファンにあいさつ(2023年1月7日撮影)
判定勝ちの高岡蒼佑はファンにあいさつ(2023年1月7日撮影)
応援に駆けつけ映画「クローズZERO」で共演した仲間と記念撮影する高岡蒼佑(中央)(2023年1月7日撮影)
応援に駆けつけ映画「クローズZERO」で共演した仲間と記念撮影する高岡蒼佑(中央)(2023年1月7日撮影)