全米プロゴルフ選手権で、50歳のフィル・ミケルソン(米国)がメジャー最年長優勝を果たした。ゴルフ界だけでなく、あらゆる世界の“シニア世代”に勇気を与える勝利だろう。「いぶし銀の円熟の技」だけではない。キャリーで310ヤードを越えるビッグドライブなど、力でねじ伏せるところも見せたからだ。

最終日の18番、興奮するギャラリーからは「フィル!」以上に「レフティー!」の大声援があった。左打ちの名手。だが、腕時計は左手首、スコアカードに記入するのは右手で、実は右利きである。来日時には右手で器用に箸を扱っていた。幼い頃、父親のスイングを目の前でまねし、鏡映しのようにしたため、左打ちになったという。

かつて、ジュニアの左打ちクラブは豊富でなかったはず。それでも、その“独自性”を許された環境があった。アマチュア時代の91年に米ツアーを制し、「天才レフティー」と呼ばれるようになった。独自性の許容は、想像力&創造力も育んだ。アプローチではピッチ&ランが主流の中、高い球で止めるロブショットを果敢に多用し、話題となった。現在ではもはや定番の技術だ。

99年全米オープンで、故ペイン・スチュワート氏と最終日最終組で優勝争い。同大会はプレーオフになった場合、翌月曜日に18ホールプレーとなる。ミケルソンはその月曜日が夫人の出産予定日であることから、第3ラウンド終了時点で「仮にプレーオフになっても夫人の元へ行くため棄権する」と表明し、ざわつかせた。名誉以上に家族を優先する姿勢が潔かった。

当時ミケルソンはメジャー未勝利。今回の勝利でメジャー通算6勝目。現在でも生涯グランドスラムに足りないのは、全米オープンだけである。

米ツアー3勝の丸山茂樹とはアマ時代から戦ってきた同世代だ。アーニー・エルスらとともに、少し年下で全盛期のタイガー・ウッズにタイトルを阻まれてきた戦友だった。当時、ウッズが懸命に筋トレするのに触発され、試合中でも鍛える選手が増えた。だが、ミケルソンは相変わらず、おなかぽっこりのメタボ体形。丸山は解説を務めた今大会のテレビ中継の中で、ミケルソンのトレーニングについて「ナチュラルに」と表現した。トレンドに流されすぎず、無理に自分を追い込まない、その自然体な部分も長持ちにつながったという意味だ。

ミケルソンは契約の関係で使用用具が変わっても、大きく左右されなかった。自身の信念と、変化に対する柔軟さは紙一重。そのバランス感覚が、ゴルフにも表れている。

来日時を含め、気さくな印象が強い。公式会見を離れた“突撃取材”にも、つたない英語の質問に一生懸命答えてくれた。あいさつのつもりか、分厚い手で肩をドンとたたかれ、足元がふらついて、すかさず支えられたこともあった。ウッズの人気絶頂期に、敵対する存在ながら、決して「ヒール」ではなかった。一部では「それは白人だから」との論調もあったが、それだけのはずはない。

この日の18番グリーン周りの熱狂は、フィル・ミケルソンがいかに魅力あふれるゴルファー、人物であるかを伝えていると思う。【岡田美奈】