2015-16シーズンが開幕し、3連覇を狙うパナソニックがサントリーに快勝した。W杯イングランド大会での大躍進を受け、超満員での華々しい幕開けを期待した中、ラグビー協会のチケット販売の失態から、昨シーズンの開幕戦(8月22日、パナソニック対東芝=1万1162人)よりも少ない1万792人に終わった。この大失態に試合後、パナソニックSH田中史朗(30)は「ラグビーが負けた日です」と、痛烈なコメントを残した。

 「前売り券完売、当日券なし」。チケット販売はすべて終了し、トップリーグ側は各種招待券での入場にも制限をかけた。W杯後の日本での晴れの舞台になるはずだった。W杯の熱気を逃すまいとSH田中は誰よりも気持ちを高め、開幕のグラウンドに飛び出した。目に飛び込んできたのは、両サイドゴール裏、そしてバックスタンドの両端がガラガラのスタンドだった。

 試合は圧勝。3連覇を目指すパナソニックとしては願ってもないスタートだが、試合後の田中の言葉は苛烈を極めた。

 田中 ラグビーが負けた日です。

 初めてラグビー界にチャンスが訪れた。W杯での死闘を世界が称賛し、日本中が代表の活躍を見守った。TLの高島チェアマンは試合前「この流れを邪魔しないよう取り組みたい」とあいさつしていた。

 田中 日本代表がW杯で勝って、選手が死にものぐるいで戦って。これでやっとラグビー界も変われるんだって、トップリーグを盛り上げるんだって、そういう思いでこの日を迎えたのに…。なんでまだラグビー協会は分からないのか。協会の人にも言いました。どこまで考えてくれているか分かりませんが、その人も残念だと言っていました。

 試合中の殺気をみなぎらせ、報道陣の目を正面から見据えて、田中は悔しさを明確に口にした。当然、見通しの甘いチケット販売をしたラグビー協会に声が届くことを意識し、自身の考えを貫いた。

 田中の言葉を受け、ラグビー協会は田中発言の10分後には、急きょプレスルームで緊急会見した。出席した小西宏事務局長(69)は「心よりおわびします。取り返しのつかないことをして、多くの皆さんを失望させてしまった。現場(選手)に比べて、(協会は)プロと呼べない状態です。深く反省しています。(W杯のある)19年に向けてマーケティングをやり直します」。一切の言い訳を含まない言葉に、全面的な謝罪の思いがこもっていた。

 これまで協会は40%を企業サイドに、25%を招待券に、一般向けは35%として運営してきた。今回の開幕戦も満員を2万人として、一般を5000枚、パナソニックとサントリーに合わせて9000枚、回数券など3000枚、スポンサーや各都道府県協会用に3000枚で計算していたが、それが大きく甘かった。

 試合に全神経を集中させながら、半分しか入らないスタンドを悲しい思いで見ていた選手が何人いたことか。この大失態をリーグ戦残り55試合にどう生かすか。すべてはラグビー協会の本気度にかかっている。【井上真】