プレーバック日刊スポーツ! 過去の6月18日付紙面を振り返ります。1996年の1面(東京版)はNBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンがブルズを3年ぶりの優勝に導いて号泣した場面でした。

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<NBAファイナル:ブルズ87-75スーパーソニックス>◇第6戦◇シカゴ

 ジョーダンが泣いた。スーパースター、マイケル・ジョーダン(33)が、ブルズを3年ぶり4度目の優勝に導いて号泣した。3勝2敗とSソニックスに迫られて迎えたこの試合、ジョーダンはチーム最多の22得点をマークして87-75の勝利に貢献、史上最多となるファイナル4度目のMVPも獲得した。最愛の父の死から3年。野球転向、復帰と回り道して、ようやく「父の日」につかんだ栄光に、大粒の涙をこぼした。

 わき出す涙は止められなかった。終了21秒前。ベンチでピッペンと抱き合う。残り3秒、2秒……。ついにはタイムアップを待てずにベンチを飛び出し、コート上に転がったボールを覆いかぶさるようにして抱き締めた。跳ね回るチームメートの横をすり抜け、一人ロッカールームへ走った。左わきにボールを抱えたまま床へ倒れ込み、タオルに顔を埋めた。この日は父の日。3連覇達成直後に少年の強盗に殺された父ジェームスさん(享年58)へのプレゼントが、それ以来となるNBA制覇だった。

 「バスケットボールをするにはつらい日だった。父との思い出がいろいろ頭をよぎって……。最高のプレゼントになったと思う」。会見では時折冗談を交え、涙をこらえて笑い声を響かせた。父の死から3年。緊張とプレッシャーに悩まされた日々から解放された瞬間だった。

息子が大リーガーになることは、ジェームスさんの夢だった。マイナーリーグの2Aバロンズで初めてホームランを打った時も目を潤ませて「これを待っていたんだ。この本塁打を父にささげたい」と話した。親子というよりも、常に寄り添って親友同士のようだった二人。自分の試合には、すべてついてきてくれた。その思い出を胸にメジャーを目指したが、ストライキで断念。昨年3月にブルズに復帰した。「もう父が遠いところに行ってしまうのでは」という悲しさと「もう後戻りはできない」という不安。それらに打ち勝って戻ってきた。

 野球転向は、父親との思い出へと現実逃避した結果でもあった。3連覇を達成した1993年。「かけゴルフ」を一緒にした友人が殺され、自宅からジョーダン名義の多額の小切手が見つかった。黒いうわさはついて回った。同じ時期に別の友人が出版した「私とマイケル」という本では、「マイケルのギャンブル好きはまるで病気だ」と書かれた。

ブルズ内でもゴタゴタに巻き込まれた。サンズとのファイナルで1試合平均41点という驚異的な数字を残しながら、若手選手から「もっと試合に出たいのに、何でマイケルだけ」と非難された。同僚からはしっとされ、世界中のファンからはスーパースター級の活躍を期待される。「やめたい」。野球へと逃げた。

 今回の優勝は3年前とは違った。マイナーリーグで下積み生活を経験したことで、主力以外の選手の気持ちを考えるようになった。「チームとして優勝することが大切だ。僕一人得点しているだけでは勝てない」。第1戦でファイナル9試合連続の30点以上がストップ(28点)。その後も29、36、23、26点と続き、この日は今ファイナル最低の22点に落ち込んだ。しかしゴール下への突進で相手の守備を引きつけ、ピッペンやロングリーをアシスト。チームの勝利を追求する姿勢が、4度目の優勝を引き寄せた。

 今季終了後にはフリーエージェントとなり、今後2年間で3600万ドル(約39億6000万円)の契約を結べなければブルズ退団もあり得るとしている。「僕らは必ず来季も戻ってくる。ジャクソン監督もロッドマンもピッペンもだ」。現在のメンバーで史上最強のチームに成り上がった。金でもめ、ストを起こした大リーグを見限ったジョーダンが、金でブルズを見捨てるはずはない。

 会見から戻ると、ハーパーから再びシャンパンをぶっかけられた。あごから滴り落ちる美酒の味は、涙とまじった。ファイナル4度目のMVPは史上最多。レギュラーシーズン、オールスター、ファイナルと年間三つのMVP独占は、70年のウィリス・リード(ニックス)以来26年ぶり二人目。しかし、塗り替えられた栄光の記録以上に、ジョーダンと父とのストーリーは世界の心を揺さぶった。

 ◆マイケル・ジョーダン(Michael Jordan) 1963年2月17日、ブルックリン生まれ。84年ノースカロライナ大時代にロス五輪金。同年ドラフト1巡目(全体3位)でブルズ入り。新人王、MVP4度、ファイナルMVP4度などタイトルを総なめ。92年にはドリームチーム1でバルセロナ五輪金。93年に引退しメジャーリーグに挑戦するも、95年3月18日に電撃復帰した。198センチ、88キロ。ガード。

※記録と表記は当時のもの