6季ぶりにB1復帰を果たした仙台89ERSに、B1広島から昨シーズンより期限付きで加入した田中成也(30)の22-23年シーズン完全移籍が決まった。日刊スポーツ東北版は、高いディフェンス力で「仙台89ERSのバスケット」を体現し、昇格に貢献した田中にインタビュー。広島で挑戦した最初のB1での苦悩と、初の移籍を経験して再びたどり着いた2度目のB1への思いを聞いた。【取材・構成=濱本神威】
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不安や戸惑いの中
20-21年シーズン。広島で挑戦した自身初のB1は苦しいものだった。「何もかもが初めてのことで、(19-20シーズンに)3Pのタイトルを取ったこともあって、自分の中で背負いすぎて楽しくない1年でした。苦しかったですし『結果を出さないとダメだ』ということにとらわれすぎて、試合の1個1個のプレーに対して集中していなかった部分がありました」。思うような結果が出せず、もがいた1年。チームは西地区最下位でシーズンを終えた。
21-22年シーズンは、14年から7シーズンプレーした広島を離れ、仙台へ期限付き移籍した。田中に求められたのは「仙台89ERSのバスケット」を構築するための強度の高いディフェンスだった。「広島の時よりは役割がだいぶ絞られました。その分、『短い時間の中でどうやって自分の良さを出すか』を考えた時に、仙台の中で僕にできる役割といえば、強度の高いディフェンス。相手のキーマンについて、そこの失点をいかに減らすかということが僕の仕事だった。“黒子役に徹した1年”だったと感じています」。初の移籍に不安や戸惑いもあったが、田中は自身の役割を理解し、その遂行に努めた。
「本当に良いチームに来られてよかった」。黒子役に嫌な感情はなく、むしろそれは田中にとって大きなプラスとなった。「この1年、自分が得意だったはずのディフェンスがさらに伸びました。広島にいた時は『これ以上ディフェンスがうまくなることはないだろう』と思っていましたが、藤田(弘輝)ヘッドコーチ(HC、36)が、堅固な守備が特徴のB1琉球でヘッドコーチをしていたこともあり、そのやり方を肌身で感じて、学んで、限界だと思っていたディフェンスのレベルを一段階上げることができた。すごく成長を感じられた部分です」。
成長の背景には、藤田HCからの評価もあった。「僕のディフェンスに対し、すごく評価をしてもらっていることが意外でした」。初のB1で最下位。7シーズンプレーした広島から仙台へのレンタル移籍で自信を失いかけていた田中にとって、その評価は奮起するのに十分だった。「西地区首位の琉球でやっていたのに、僕のディフェンスを『すごい』と言ってくれることに驚きました。数字に残らない部分をちゃんと評価してもらえて、ちゃんと見てもらえるということがモチベーションになりました」。仙台での1年は、心身ともに充実した1年だった。
昇格決まり目に涙
5月16日、プレーオフ(PO)準決勝で香川に勝利しB1昇格が決まった瞬間、田中の目には涙があふれた。「仙台は本当にいい人たちばかりで『その人たちのために勝ちたい』という思いが、僕の中ですごく強かった。B1昇格を達成した瞬間に、去年の悔しかった思いだったり、このチームで勝てたことに対する安堵(あんど)感だったり、いろんな感情があふれてきました。僕自身としてもPOを戦って昇格したのは仙台が初めてだったこともあって、いろんな達成感で泣いてしまいました」。広島のB1昇格時は、新型コロナウイルスの影響でシーズンが打ち切り。勝率での自動昇格だったため、POは行われなかった。そして、Bリーグ初年度には、PO準決勝で現B1の島根に敗れ、昇格を逃す経験もしている。だからこそ、POで勝利しての昇格は特別だった。田中は「僕のキャリアの中でも絶対に思い出に残るシーン。仙台の昇格の瞬間はずっと胸に残っていると思います」と感慨に浸った。
10月から自身2度目のB1挑戦が始まる。田中は「2回目のチャレンジの中で、自分がB1でやれる選手かどうかをどこまで表現できるかが楽しみです」と、開幕を心待ちにした。また仙台の街を盛り上げることにも意欲的だ。「B1という舞台になったので、バスケットボールがもっともっと仙台でも認知されてほしい。選手、チームが一丸となって盛り上げていけたらいいなと思います」。磨きがかかった堅守をB1でも発揮し、「仙台89ERSのバスケット」を浸透させる。
◆田中成也(たなか・せいや)1991年(平3)8月24日生まれ。新潟県出身。ドイツ人の父と日本人の母を持つ。明大卒業後、現B1の広島ドラゴンフライズに入団。クラブ立ち上げから在籍し、14年から21年までの7シーズンを広島でプレー。19-20年シーズンには3点シュート(3P)成功率42.8%をマークし、B2ベスト3P成功率賞を受賞。19-20年シーズンの広島のB1昇格に大きく貢献した。186センチ、80キロ。


