最終回間近「カムカムエヴリバディ」/東映太秦撮影所と時代劇スターの空気感/ヒロイン3世代年表

朝ドラ「カムカムエヴリバディ」は4月8日が最終回。時代劇スターと映画村が重要なピース。ベテラン記者しか書けない取材秘話を綴ります。大正・昭和・平成を駆け抜ける「ヒロイン3世代ドラマ&世相年表」と合わせてどうぞ。

ストーリーズ

文・相原斎、グラフィック・山本遥香


ドラマと世相を見比べながらご覧ください(グラフィック作成・山本遥香)
ドラマと世相を見比べながらご覧ください(グラフィック作成・山本遥香)

★「旗本退屈男」こと市川右太衛門さん★

多くの人気女優を輩出している「NHKテレビ小説」は、芸能記者の必見ドラマと言える。半ば仕事として視聴してきたわけだが、放送中の「カムカムエヴリバディ」には、いつになく前のめりになっている。背景に見え隠れする芸能史が実体験に重なるからだ。

特に80年代前半の「ひなた編」は駆け出し記者として映画の撮影現場をひんぱんに取材した時期であり、ドラマに出てくる条映映画村のモデル、京都の東映太秦撮影所はさまざまな思い出を呼び起こしてくれる場所である。

今のようなコンプライアンスの縛りの無い当時の取材現場はいいことばかりでは無かったかもしれないが、時代劇を支えた俳優さんたちには、気持ちのいいほどおおらかな「大物感」があった。

1925年、阪東妻三郎(左から2人目)が京都太秦に自社プロダクションの撮影所を作った。この写真の撮影場所は現在の東映京都撮影所内の俳優会館のあたりと思われる。

1925年、阪東妻三郎(左から2人目)が京都太秦に自社プロダクションの撮影所を作った。この写真の撮影場所は現在の東映京都撮影所内の俳優会館のあたりと思われる。

ドラマの中で二代続けて時代劇スターとして活躍している桃山剣之介(尾上菊之助)の先代には、市川雷蔵、阪東妻三郎、片岡千恵蔵らそうそうたる面々が複合的に投影されていると思う。その1人である「旗本退屈男」こと市川右太衛門さん(99年、92歳没)には、晩年何度か取材する機会があった。

91年1月、次男の北大路欣也の芸能生活35周年パーティーに出席した右太衛門さんは当時84歳。スピーチで北大路が主演したばかりの映画「動天」に触れ「親の私が言うのも何ですが、欣也もよくやっています。だが、この私が主演すればもっと素晴らしい映画になった。フォッ、フォッ、フォッ」と笑いを誘った。ちなみに「フォッ……」は退屈男の決めゼリフならぬ「決め笑い」である。

1967年、自宅でゴルフのクラブ談義をする北大路欣也(左)と父親の市川右太衛門

1967年、自宅でゴルフのクラブ談義をする北大路欣也(左)と父親の市川右太衛門

ドラマの二代目桃剣は偉大な父の「影」に圧迫感を覚えている。モデルの右太衛門さんの方はもう少しおおらかだったわけだが、スピーチを聞く北大路の苦笑いも記憶に残っている。

右太衛門さんが京都に住んでいた頃から、自宅のあった嵐山近辺には分厚いじゅうたんに靴を脱いで上がる高級スナックが何軒かあり、撮影を終えた俳優や監督が通った。「カムカム―」で描かれる頃に重なる80年代、取材終わりに何度かそんなスナックに寄ったことがある。右太衛門さんは64年に東京に移ったから、10年以上のご無沙汰だったはずだったが、年かさの女性たちは決まって「右太衛門さん、また会いたいわぁ」と口にした。薄れない存在感に驚かされた。

右太衛門さんの名刺は厚手の和紙。名前6文字だけが太く書かれ、文字サイズは紙幅の中央3分の1を占める。今ならちょっと引くような自己顕示が、決して嫌みにならないその「大きさ」の象徴だったように思う。

1969年、舞台「大菩薩峠」で机竜之助役を演じる辰巳柳太郎

1969年、舞台「大菩薩峠」で机竜之助役を演じる辰巳柳太郎

★辰巳柳太郎さんの愛情表現★

「カムカム―」では時代劇の退潮が象徴的に描かれているが、右太衛門さんらとともに東映時代劇を支えた大友柳太朗さんが自宅マンション屋上から飛び降りて亡くなったのも85年9月だった。73歳。師匠に当たる当時80歳の辰巳柳太郎さんに話を聞くため、赤坂の自宅を訪ねたことをよく覚えている。

辰巳さんは奥の書斎で先に来た週刊誌の取材を受けているということで、夫人にその隣の居間のようなところに通された。1社ずつのていねいな対応だと思った。テーブルの上には写真誌が数冊。ゴシップとは無縁のはずの新国劇の重鎮にしては意外だった。お茶を運んできた夫人の表情はよく知る大友さんへの思いからか暗かったが、私の目線で察したのだろう。「主人はこういうの(写真誌)が大好きなんです。困ったもんですわ」と少しだけ笑った。

辰巳さんは実直だった愛弟子への思いを語り、予兆に気付けなかったことをしきりに悔やんだ。初対面の私に、何とか真意を伝えようとしていた。大友さんは晩年も役作りに懸命だったゆえに思い詰めるところもあったのだろう、と今ならその心中を想像するのだが、当時はその原因についていろいろ聞いた。

辰巳さんは「君はまさか女性問題とか思っているのじゃないだろうね。不器用な大友にはありえないよ。そっちの方面に興味があるんなら緒形(拳)を追い掛ければいい」と、もう1人の弟子の名前まで挙げ、真顔で大友さんの生真面目ぶりを強調した。緒形さんにはとばっちりだろうが、これも弟子たちへの開けっ広げな愛情表現なのだと思った。

「条映映画村」とその周辺のどこかほのぼのとした雰囲気は、そんな時代に重なって、いつもホッとした気分にさせてくれる。

東映太秦映画村のオープンセット。南北の通りは西から東へ順に一丁目、二丁目、三丁目、四丁目。

東映太秦映画村のオープンセット。南北の通りは西から東へ順に一丁目、二丁目、三丁目、四丁目。

東映太秦映画村の江戸の町。ここでドラマや映画の撮影が行われることがある。

東映太秦映画村の江戸の町。ここでドラマや映画の撮影が行われることがある。

東映太秦映画村は時代劇セットだけでなくエヴァンゲリオンのアトラクションなど若い客層が多いそうだ。©カラー

東映太秦映画村は時代劇セットだけでなくエヴァンゲリオンのアトラクションなど若い客層が多いそうだ。©カラー

【カムカム3ヒロインと同い年の有名人(敬称略)】

■初代ヒロイン・橘→雉真安子(上白石萌音)、1925年(大14)3月22日生まれ。

25年生まれ(2022年満97歳)の主な著名人=3代目桂米朝(落語家、人間国宝・故人)、杉下茂(元プロ野球選手)、栃錦(第44代横綱・故人)、永井路子(小説家)、野中広務(政治家・故人)、橋田寿賀子(脚本家・故人)、初代林家三平(落語家・故人)、ポール・ニューマン(俳優・故人)、マーガレット・サッチャー(英国首相・故人)、三島由紀夫(小説家・故人)」。21年4月に亡くなった橋田寿賀子は、劇中にも登場した「おしん(83年)」「おんなは度胸(92年)」と、「春よ、来い(94年)」の3作で朝ドラの脚本を担当した。

■2代目ヒロイン・雉真→大月るい(深津絵里)、1944年(昭19)9月14日生まれ。

44年生まれ(2022年満78歳)の主な著名人=久米宏(アナウンサー)、ジミー・ペイジ(ギタリスト)、子門真人(元歌手)、ジョージ・ルーカス(映画監督)、杉良太郎(俳優)、高橋英樹(俳優)、田中真紀子(政治家)、2代目中村吉右衛門(俳優・故人)、山本寛斎(デザイナー・故人)、横山やすし(漫才師・故人)。回転焼き「大月」の売り上げが落ちた原因となった「およげ!たいやきくん」の大流行。これを歌った”商売敵”子門真人とは同い年。

■3代目ヒロイン・大月ひなた(川栄李奈)、1965年(昭40)4月4日生まれ。

65年生まれ(2022年満57歳)の主な著名人=尾崎豊(歌手・故人)、さくらももこ(漫画家・故人)、沢口靖子(女優)、中森明菜(歌手)、野口聡一(宇宙飛行士)、古田敦也(元プロ野球選手)、本木雅弘(俳優)、三木谷浩史(楽天会長)、YOSHIKI(ミュージシャン)、吉田美和(歌手)、ロバート・ダウニーJr(俳優)。新津ちせが演じた10歳のひなたの衣装が「ちびまる子ちゃんみたい」とネットで話題になったが、作者のさくらももこと実際に同い年だった。映画「アイアンマン」主演のロバート・ダウニーJrは、ひなたと全く同じ65年4月4日生まれ。

「カムカムエヴリバディ」3ヒロインと同い年の主な著名人。上段1925年、中段1944年、下段1965年生まれ

「カムカムエヴリバディ」3ヒロインと同い年の主な著名人。上段1925年、中段1944年、下段1965年生まれ