BiSHのアイナ・ジ・エンド「命を燃やして」ジャニス・ジョプリンの魂を歌う

ストーリーズ

梅田恵子

6人組ガールズグループ、BiSHのアイナ・ジ・エンドが、ブロードウェイミュージカル「ジャニス」(8月23日から、東京国際フォーラム)で伝説のロックシンガー、ジャニス・ジョプリンを演じる。健康的なBiSHとは異なるブルースな音楽人生に、初主演で挑む。重圧を感じながらも、「命を燃やして歌う」ことへの思いは、ジャニスとしっかりつながっている。

◆アイナ・ジ・エンド 年齢非公表。楽器を持たないパンクバンド、BiSHのメンバーとして16年にメジャーデビューし、昨年大みそかのNHK紅白歌合戦に「プロミスザスター」で初出場。昨年2月、全曲作詞作曲のファーストソロアルバム「THE END」をリリース。今年3月に公開されたミュージカルアニメ「SING/シング」の日本語吹き替え版でオオカミのポーシャ役を演じて話題となった。

◆ジャニス・ジョプリン 1943年、米テキサス州生まれ。67年のモントレー・ポップ・フェスティバルでシャウト型のボーカルが一躍注目を集め、60年代のカウンター・カルチャーの代表的存在に。全米1位の「ミー・アンド・ボギー・マギー」や「サマータイム」などヒット曲多数。「ジャニスの祈り」は自動車メーカーをはじめ数々のCMソングに起用され、日本でもよく知られる。70年10月4日、滞在中のホテルで死去。

ミュージカル初主演

ジャニス・ジョプリンが死去して52年になる。挫折の多い人生を音楽に昇華させ、5年に満たない活動で残した音楽は、シャウトな歌声とともに今も世界のロック史に強烈な輝きを刻んでいる。成功と同時進行でドラッグに落ち、27歳でこの世を去る音楽人生は、これまでたびたび映画や舞台の題材となってきた。

平成生まれのアイナは「『クライ・ベイビー』がディオールのCMに使われてるな~とか、浅い情報しか知らなかった」とからっと笑う。

もともとスマホのプレイリストに入れているほど好きなアーティスト。尊敬する音楽プロデューサー、亀田誠治氏から直々に指名され、尻込みよりも喜びの方が大きかった。「調べていくうちに、人よりも多く命を燃やしたからあれだけ魂の叫びのような歌を歌えたのかなと、さらに魅力を感じた。『ジャニスになりたい』という気持ちが強くなって、今までの自分とは違う頑張り方をしたいと思った」と抱負を語る。

BiSHの活動では、スクール水着でパフォーマンスしたり、ライブ前に全員で「ち○ぽー!」と気合を入れたり。型破りなグループ性の中心人物でもあるが、芸事の経歴は本格的だ。音楽畑の両親のもとに生まれ、4歳からダンス、中学1年からミュージカルスクールに通った根っからの表現者である。「小5の時に『アニー』を見て以来、ミュージカルスターになるのは夢でした。学校の傘立てをステージにして、廊下中に響き渡る声でアニーを歌ったりして」。

ミュージカルスクールでは、ウジ虫の役などの端役ばかりだったとし、「向いていない」と後ろ向きになった当時の自分を悔しがる。BiSHやソロ活動を通じて幅広い経験値を積み、今回の大役でミュージカルに戻ってきた。「劣等感や、そのせいで誰かを傷つけてしまったかもしれない経験が、ダンスや歌詞の表現力、想像力に少しでもつながっていれば。そう思うと、出ばなをくじかれたことも大事でした」。

アイナ・ジ・エンド(2022年7月撮影)

アイナ・ジ・エンド(2022年7月撮影)

ジャニスのようなハスキーでパワフルな歌声は大きな魅力だ。「産声からハスキーだったらしい。ちっちゃい時にキロロを歌っている映像もガスガスです」と笑う。高3の時、カラオケで披露した歌声に親友が感動して泣き、初めて自分の声を好きになったという。

今やソロ活動では、椎名林檎、SUGIZO、川谷絵音らトップアーティストとのコラボも多い。「吐くほどの緊張の中で多くのことを学び、少しずつ自分の歌が広がっていく感覚があった」。「ジャニス役とあっていろいろ言われる怖さはありますが、楽しんで見てくれる人は必ずいる。多くの人に教わりながらそう知った。今の私なら大丈夫と思えました」。

27歳でこの世を去ったジャニスと“同年代”になり、共感できるところも多いという。「ジャニスは1人じゃない時間を音楽で過ごせたから生きていけたんだと思う。私も、1人ぼっちで音楽をやれと言われたら辞めると思う」。自身と異なる点を聞くと「唯一、ドラッグだけは理解しがたい」と明快だ。

本番へ向け「やばすぎて毎日必死」。今は「和製ジャニス・ジョプリンになる必要はない。アイナはアイナらしく」という亀田氏の言葉を胸に刻んでいる。「第一声で心を揺さぶられて、第二声で涙が出てしまう。ジャニスは私のあこがれです。私も、心の叫びを歌う、命を燃やして歌うということは同じ。一生懸命やるので、見てくれる人が何か1個でも共鳴してくれたらうれしいです」。

アイナ・ジ・エンド(2022年7月撮影)

アイナ・ジ・エンド(2022年7月撮影)

◆ブロードウェイミュージカル「ジャニス」 ロックシンガー、ジャニス・ジョプリンの半生を“亡くなる1週間前の一夜のコンサート”をコンセプトに描く。ジャニス(アイナ・ジ・エンド)が自らの物語を語りながら名曲の数々を歌うほか、音楽人生に大きな影響を与えたアレサ・フランクリンをUA、ニーナ・シモンを浦嶋りんこ、ベッシー・スミスを藤原さくら、エタ・ジェイムスを長屋晴子(緑黄色社会)が演じる。本家は13~14年に上演され、主演メアリー・ブリジット・デイビスはトニー賞最優秀ミュージカル女優賞ノミネート。東京国際フォーラムで、8月23~26日まで。

WOWOWの制作も話題に

「ジャニス」を通し、WOWOWがミュージカル制作に初進出することも話題だ。これまで、さまざまな舞台コンテンツ部分出資しながら人脈やノウハウを積み、ブロードウェーミュージカルの日本版という形でいよいよ自前の制作に乗り出した。

水口昌彦常務は「まったくのオリジナルではなく、まずはひな型のあるもの、海外のライセンスものを日本版にローカライズするという挑戦」。13~14年に上演され高い評価を得た「ジャニス」の魅力が日本向きと感じ、交渉を開始したという。「今までにないユニークなキャストが集結し、WOWOWらしい新しいミュージカルになると思う」と自信をみせる。

事業部の大重直弥氏は、キャスティングについて「当初はミュージカル歌手の起用も考えたが、ジャニスの独特のハスキーボイスや、歌唱力だけではない表現力を考えた時に、音楽キャストにかじを切った」とし「ベストなメンバーがそろったと思う」。アイナの歌声に「客席も最後は一気に心を持っていかれると思う」と話している。