初のメダルを目指すフィギュアスケート団体戦で、先陣を切った宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が男子ショートプログラム(SP)2位に入った。

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3季ぶり自己最高の105・46点を記録。新型コロナウイルス陽性判定を受けたステファン・ランビエル・コーチ(36)不在の中、111・71点で首位のチェン(米国)に続いた。アイスダンス・リズムダンス(RD)は小松原美里、尊組(倉敷FSC)は7位、ペアSPは三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)が4位。日本は初日を終えて4位につけた。

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オーボエの音色が静まり、宇野は日本の応援席を見ながら拳を握った。演技開始は午前10時40分過ぎ。直前練習は同6時25分開始で、苦手な朝の本番に体のキレはさえなかった。「自分を大きく見せようとかせず、練習通りにできた。すごく冷静だったと思います」。会場にランビエル・コーチの姿はない。それでも代名詞の4回転フリップから3つのジャンプをそろえ、日本の門出に花を添えた。

「最善は尽くしたいと思いますし、駄目だったら真剣に謝りたいと思います」

わずか1日前、大勢の記者の前でそう言った。表情を緩めながらも、本心をさらけ出した。4年前の平昌五輪は同じ団体戦SPで首位。個人でも銀メダルを獲得した。それほどまでの実績を積み上げたが、この4年も等身大であり続けた。

あの長野の夜もそうだった。20年12月、全日本選手権で5連覇を逃した。背中を追う羽生結弦に、34・55点差をつけられて2位。日付が変わる頃、宇野が愛用するネックレスのブランド「コラントッテ」の小松克已社長(65)と対面した。ほほえみながら言った。

「負けちゃいました。ユヅくん、すごかったです」

発する言葉に言い訳はなかった。相手をたたえ、矢印は自分に向ける。宇野とアドバイザリー契約を結び、家族ぐるみで食事をする小松社長は「(男子ゴルフのトップ選手)ローリー・マキロイが優勝争いに敗れた時、向こうから私に『元気ないじゃん』と寄ってきた。あれを思い出しました。負けを潔く受け入れる姿が共通する」となぞらえた。4年に1度の五輪も、そこにいつもの宇野がいた。

3季ぶりの自己ベストにも、自らに求めるハードルは高い。「ジャンプ以外の面でもっと表現ができたと思う」。8日には個人戦のSPを控え、ランビエル・コーチは早期の北京入りを目指している。個人戦にも、団体戦の日本にも勢いをつけ、仲間を思いやった。

「僕のやるべき責任は久々に全うできました。みんなが気負わず、最後まで、笑顔で終わっていただけたらと思っています」

宇野はたくましく、そして優しかった。【松本航】