ロシアの最高傑作が、衝撃の五輪デビューを飾った。女子ショートプログラム(SP)で15歳のカミラ・ワリエワ(ROC)が90・18点をマークして1位。2位樋口新葉(21)に15・45差をつけた。1月の欧州選手権で出した90・45点の世界最高点に迫った。高難度のジャンプだけでない、バレエに根差した美しいスピンなどでも魅了する金メダル有力候補。15日から始まる個人戦でも、歴史に名を残しそうだ。

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うっとりとした表情でリンクの中空を見つめた。「このショートプログラムが終わる頃にはとても元気が出ました。亡くなった祖母のためスケートをしているので、その気持ちが私をひきつけたのだと思います。」。ワリエワが北京に刻んだ2分40秒は、早くもフィギュアの五輪史に残るような、印象深いものになった。「ほしかった結果を残せたと思います」とほほえむ姿も鮮烈だった。

ジャンプは両腕を体に巻き付けて遠心力を増す。それが定石。ワリエワは違う。それも冒頭のトリプルアクセル(3回転半)から。両腕を高々と挙げて跳躍する。3回転フリップ、後半のルッツ-トーループの連続3回転まで。加えて着氷後も加点を得る動きを組み込む。異次元さが際立ちながら、跳ぶだけではない。

染み込ませたバレエの基礎が美しさを生む。指先、足先まで神経が行き届いた滑り。スピンでは出来栄え点で満点を出すジャッジが続出。「少し緊張しましたが、氷に乗ったらよく滑れたと思います」。人生2度目の90点台は、女子で唯一の世界だ。

近年名選手を輩出し続けるエテリ・トゥトベリゼ・コーチの「最高傑作」とされる。18年から指導を仰ぎ、ジュニア世代からトップに君臨。通称「エテリ組」の先輩には4年前、同じく15歳で平昌五輪を制したザギトワがいる。今回は報道の仕事で会場を訪れていた偉大な先輩からも、練習日にエールを送られた。シニア1年目での戴冠へ、大きな期待も背負う。

披露したSP「イン・メモリアム」には、物語もある。「滑っている時はチョウをずっと追っています。チョウは夢だと考えてて、求めて、逆に呼ばれている感じ。最後にはチョウを捕まえて、夢がかなうんです」。フィニッシュポーズで見つめるもの。夢とは五輪の頂点だろう。

15日からは個人戦が待つ。SPでは禁止される4回転を跳ぶフリーでは、さらに衝撃を残すだろう。夢を現実に変える時が近づく。

◆カミラ・ワリエワ 2006年4月26日、ロシア・カザン生まれ。3歳になった09年に競技をはじめ、同国のノービス選手権で優勝。ジュニアのGPファイナルと世界選手権2冠もジュニア1年目の快挙だった。高校1年。趣味はダンスと絵画。身長はこの1年で5センチ伸びて160センチ。