スポーツ仲裁裁判所(CAS)は14日、北京オリンピック(五輪)フィギュアスケート女子ROC(ロシア・オリンピック委員会)代表のカミラ・ワリエワ(15)が昨年末のドーピング検査で陽性反応を示していた問題で、北京五輪の個人戦出場を認める裁定を下した。

   ◇   ◇   ◇

旧ソ連や旧東ドイツなど、旧共産圏には、国威発揚のため、薬物で筋力増加や心肺能力向上を図る薬物違反がスポーツ界で横行しているという疑惑は、以前から常にあった。それが白日の下にさらされた発端が、14年12月にドイツ公共放送ARDが放送したドキュメンタリー番組だった。

同番組は、ロシアの陸上界におけるドーピング違反を暴露した。選手が金で違反をもみ消したり、ドーピング検査を行う機関のトップが、もみ消す代わりに金銭を要求したり、腐敗の構図を暴いたのだ。

この番組に慌てたのが、世界で反薬物使用を推し進めるために設立され、国際オリンピック委員会(IOC)とも連係している世界反ドーピング機関(WADA)だ。第三者委員会を立ち上げ、真相の調査を行った。

15年11月に、WDADAが公表した調査報告書は335ページにもなった。その内容は、ARDの番組より衝撃的だった。選手から摂取した多くの検体を国ぐるみで破棄したり、ロシアの司法当局の関与まで明らかになった。

WADAは、即刻、ロシア反ドーピング機関(RUSADA)を資格停止。16年7月には、11~15年までロシアが国ぐるみでドーピングを行っていたことを公表し、リオデジャネイロ五輪にロシア選手団の出場を禁ずる勧告を出した。

ここで、IOCがWADAの勧告を受け入れ、厳しい措置を採っていれば、今回のような違反は起こらなかったかもしれない。しかし、IOCは、ロシアというスポーツ大国を、五輪から排除する影響の大きさにひるんだ。

IOCは、各国際競技団体にロシア選手出場可否の判断を委ねた。リオデジャネイロ五輪には、ロシア選手団389人のうち、271人が出場。続く18年平昌冬季五輪からは、条件付き個人資格での出場が可能となった。

ロシア選手は、昨年の東京五輪、今回の北京五輪ともに、ロシア五輪委員会(ROC)の個人選手として参加している。国旗や国歌の使用は認められないが、ロシア「国籍」の選手が参加しているのは事実だ。そして、ワリエワの問題が起きた。

今回、RUSADAが資格停止処分を解除したことに、IOCやWADAがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴した。ロシアの国ぐるみでのドーピング違反が判明したときに、毅然(きぜん)とした態度を取ったWADAの不服申し立ては理解できる。

しかし、IOCはどうだったのか。今回の不服申し立てを行うのであれば、16年7月に、WADAの勧告を受け入れていれば、このような騒動は起きなかった可能性は高い。その結果、不服申し立てを却下されていては、笑い話にもならないのではないだろうか。