北京五輪フィギュアスケート女子でショートプログラム(SP)3位の坂本花織(21=シスメックス)が団体戦に続き、2個目の銅メダルに輝いた。フリー3位153・29点を記録し、合計233・13点。SP、フリー、合計と全て自己最高を更新し、10年バンクーバー五輪銀の浅田真央以来、日本女子12年ぶりのメダルをつかんだ。

ドーピング問題に揺れたロシア・オリンピック委員会(ROC)の15歳カミラ・ワリエワは4位。SP2位のアンナ・シェルバコワ(ROC)が逆転金メダルをつかんだ。

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全てが信じられなかった。演技を終えて、待機していた上位3人の控室。坂本は3位の位置に座り、最終滑走ワリエワの演技を見た。暫定4位で部屋を出る樋口を「すぐに行くわ~」と送り出した。目の前の映像を見て、言葉を失った。「正直、見るのがつらかった」。団体戦で他を圧倒した金メダル最有力候補のワリエワが、何度も氷へ体を打ち付けていた。最終順位確定後、3位に自分の名前があった。涙があふれ出た。

「4位だと思っていました。『神様がついているな』と思った。『うれしい』以外に言葉が出ないです」

スケートを考えることさえ嫌な日もあった。高2だった18年平昌五輪で6位入賞。同年の全日本選手権で初の日本一に輝いたが、前回女王として臨んだ翌19年は6位に沈んだ。コーチの声は耳に入らず「どうにでもなれ」と投げやりになった。世界ではトルソワら4回転ジャンパーがシニアに転向。「もう無理やな。できるジャンプがそもそも違う」。朝練習を終えると、当てもなく神戸の繁華街「三宮」や海沿いの「ポートタワー」の周辺を1人で歩いた。それでも夕方、練習場に戻るとため息が出た。

どん底を脱したのはコロナ禍だった。20年4月、リンクが閉鎖。日常からスケートが消え、3日で物足りなくなった。世界のライバルも練習や渡航に制限がかかり、目線が同じになった気がした。「やったもん勝ちやん!」。所属するシスメックスの陸上部に交じって体力を強化し、その足でダンスの練習に向かった。リンク再開後は貸し切りの時間帯以外も使い、一般客に交じってスピンを磨いた。「自分は天才じゃない」-。心の底から思えた。

この日、前を滑るトルソワの好演技に会場はざわついた。最終組で唯一3回転半、4回転を組み込まずに挑んだ舞台。磨き上げたジャンプを1本ずつ重ね、壮大な滑りの最後を3回転ループで締めた。こだわった作品は、全体2位の演技構成点74・39点が証明した。

氷上でのマスコットセレモニーを控え、中野園子コーチ(69)と抱き合った。「この4年間の集大成。今まで頑張ってきたことが報われて、すごくうれしいです」。スケートの神様は見捨てなかった。【松本航】

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◆坂本花織(さかもと・かおり)2000年(平12)4月9日、神戸市生まれ。4歳で競技開始。17年3月の世界ジュニア選手権3位。同年12月の全日本選手権2位で2枠の平昌五輪代表入り。同五輪は6位。昨年12月の全日本選手権では3年ぶり2度目の優勝を飾り、北京五輪代表に内定。趣味は水泳と折り紙。神戸野田高-神戸学院大。シスメックス所属。中野園子コーチらの指導を受ける。159センチ。