バッハ会長に安倍首相、森会長、小池都知事、山下会長…。東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの21年への延期が決まった際には、多くの顔が登場した。IOCと日本政府、さらに組織委員会と東京都、JOC、その関係性は複雑で分かりにくい。というわけで、東京大会開催に向けて登場する団体や人物の関係を紹介。延期決定までのプロセスを振り返る。

■「オールジャパン」必要

3月24日夜、首相官邸は緊迫したムードに包まれていた。IOCのバッハ会長との電話会議。大会組織委員会の森会長、小池都知事、橋本五輪相らが同席した場で、安倍晋三首相は「1年程度の延期」を提案した。バッハ会長は「100%同意する」と返答。その後のIOC理事会で「21年夏までの開催」が決まった。

五輪を主催するのはIOC。唯一、大会の中止や延期を決める権利を持っている。新型コロナウイルスの欧州での爆発的な感染拡大もあって、22日には臨時理事会で「延期を含めて検討する」と決定。状況は日に日に深刻化していたため、長引けば「中止」の声が出てもおかしくなかった。

日本側は政府、東京都、組織委員会ともに「中止だけは避けたい」の思いが強かった。だから、IOCの機先を制するように「1年延期」を提案。補償問題などから自ら延期や中止を言いたくないIOCにとっては渡りに船だった。日本の各組織が一丸となり、素早く動いたからこそ、大会の1年延期を勝ち取れた。

13年の大会招致時は、IOCロゲ会長、JOC竹田恒和会長、猪瀬直樹東京都知事だった。大会組織委員会はなかったし、五輪相もいなかった。唯一変わらない安倍首相を除けば、7年間で顔ぶれはガラッと入れ替わった。それでも、招致時の合言葉「オールジャパンで」は変わらない。五輪史上初めての延期という難局を乗り越えるには、政府や東京都、組織委員会、JOCなど「オールジャパン」で臨む必要がある。

トーマス・バッハIOC会長
トーマス・バッハIOC会長

◆IOC International Olympic Committeeの略。世界平和のためにオリンピック運動を推進し、大会を開催するためにクーベルタン男爵が1894年に設立。トーマス・バッハ会長は9代目。定数115のIOC委員による総会が最高決議機関。会長、副会長ら15人の理事による理事会が実務を遂行する。本部はスイス・ローザンヌ。

◆トーマス・バッハ 1953年12月29日、西ドイツ(当時)生まれ。76年モントリオール五輪フェンシング・フルーレ団体で金メダルを獲得。弁護士をしながらスポーツ界で活躍し、81年にIOCアスリート委員に就任した。91年にIOC委員となり、96年から同理事。00~04年と06年から同副会長、13年9月のIOC総会で会長に選出された。

◆NOC National Olympic Committeeの略。IOCの窓口として、その国や地域内で五輪にまつわる活動を推進する団体の総称。英国オリンピック委員会、中国オリンピック委員会など世界で206のNOCがある。日本のNOCは日本オリンピック委員会(JOC)。五輪出場枠は各NOCに割り当てられる。

◆IF International Federationの略。各種競技を世界的なレベルで統括して、IOCの承認を受けている団体。陸上は世界陸連、水泳は国際水連、柔道は国際柔道連盟など。日本で五輪競技の現役IF会長は、国際体操連盟の渡辺守成会長だけ。五輪が開催されない年に、各IFが主催して、世界選手権を行っていることが多い。

◆開催都市契約 五輪開催に際し、IOCと開催都市、開催都市のある国のNOCの間で結ばれる。東京大会のものは開催が決定した13年9月7日にIOC、東京都、JOCの間で締結された。14年8月には組織委員会も当事者として併合契約。大会の準備は、これに沿って行われる。IOCの権利や東京都、JOCの義務など87条に及び、大会の中止などIOCが契約を解除できる条項もある。

安倍晋三首相
安倍晋三首相

◆安倍晋三(あべ・しんぞう)1954年(昭29)9月21日、東京都生まれ。93年に衆議院選挙に初当選し、当選9回。03年に自民党幹事長となり、05年の第3次小泉改造内閣で内閣官房長官として初入閣。06年9月に戦後最年少の51歳で内閣総理大臣となる。翌07年に辞任も、12年再就任。

橋本聖子五輪相
橋本聖子五輪相

◆橋本聖子(はしもと・せいこ)1964年(昭39)10月5日、北海道生まれ。3歳からスケートを始める。冬はスピードスケート、夏は自転車で合計7度の五輪出場。引退後、日本選手団団長を3回務めた。95年に参院選自民党比例区で初当選。現在5期目。19年9月に東京五輪・パラリンピック担当大臣に就任。女性活躍担当も兼任する。

◆JOC IOCの日本窓口としてオリンピックムーブメントの推進を担い、五輪、アジア大会への選手派遣を行う。当初は1911年(明44)設立の大日本体育協会(現日本スポーツ協会)傘下の委員会。だが80年モスクワ五輪ボイコットの反省から政治と距離をとるため91年に独立。団体トップは初代は嘉納治五郎、現在は山下泰裕。東京都新宿区霞ケ丘4の2。

山下泰裕JOC会長
山下泰裕JOC会長

◆山下泰裕(やました・やすひろ)1957年(昭32)6月1日、熊本県生まれ。小4から柔道を始めて、84年ロサンゼルス五輪無差別級金メダルを獲得。国民栄誉賞を受賞した。85年に引退して、全日本柔道連盟会長などの要職を歴任。JOCでは13年に理事、17年に選手強化本部長、19年に会長就任。20年1月にはIOC委員に就任した。

◆NF National Federationの略。その国や地域内で競技を統括する組織のことで、日本陸連、日本水連、全日本柔道連盟など。五輪に選手を出場させるには、NFはNOCに加盟した上で、IFに所属する必要がある。例えば日本陸連は日本オリンピック委員会に加盟し、かつ世界陸連に所属している。

◆東京都 日本の首都で総人口は約1400万人。2020年第32回夏季五輪の開催都市に16年に続いて立候補し、13年9月のIOC総会でイスタンブール、マドリードを破って選出された。アジア初開催だった1964年第18回大会に続いて2度目。40年第12回大会も開催都市に決まっていたが戦局の悪化により返上している。

小池百合子東京都知事
小池百合子東京都知事

◆小池百合子(こいけ・ゆりこ)1952年(昭27)7月15日、兵庫県生まれ。カイロ大卒。「ワールドビジネスサテライト」初代メインキャスターを経て、92年参院選に日本新党から出馬し初当選。93年から衆院。女性初の防衛相、環境相を歴任。東京10区。当選回数は衆8参1。16年7月の都知事選で初当選。

◆東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 2020東京五輪の準備、運営を行うために14年1月JOCと東京都によって設立。史上初めて同一の組織で五輪とともにパラリンピックの準備も行う。森喜朗会長、武藤敏郎事務総長。本部は15年から港区の虎ノ門ヒルズ、昨年4月に中央区の晴海トリトンスクエアに移転した。

森喜朗会長
森喜朗会長

◆森喜朗(もり・よしろう)1937年(昭12)7月14日、石川県生まれ。早大卒。産経新聞社、議員秘書を経て69年衆院選で初当選。83年第2次中曽根内閣で文部相として初入閣した。00~01年に首相。衆院議員を14期務め、12年に国会議員から引退した。東京五輪招致委の評議会議長を務めた後、14年1月、組織委会長に就任した。