日本がフィギュアスケート団体で初めてメダルを獲得した。選手の躍動の裏側に、どのような支えがあったのか。02年ソルトレークシティー五輪の男子代表で、日本スケート連盟の竹内洋輔強化部長(42)が出国前に日刊スポーツの取材に応じ、取り組んできた4つの対策を説明した。過去2大会とも5位から銅。「睡眠」「栄養」「映像」「開発」の医科学サポートが初の表彰台につながった。

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【睡眠】今大会は、団体戦や男子の個人戦など午前開始の試合が多く組まれている。公式練習開始が朝6時の場合、起床は3時。「8時間睡眠を確保するには前夜7時に寝ないといけない。遅く寝ることは楽でも早く寝ることは難しい」。そこで国立スポーツ医科学センターと協力し「ブライトライトME+プロ」という太陽光照射装置を5台、持ち込んだ。「太陽光を受けて14~16時間後、眠くなるメラトニンが分泌される」。午後8時に就寝したい場合、午前5時には浴びたい。ただ、日が出ていない中で「朝食を取りながら20分ほど機器の前に座って照射を受けられる」環境を整えた。フィギュアの試合は基本的に夜だが「4年に1度だけ朝になる」特殊な状況に日本が対応できた一因に、少なからず貢献した。

【栄養】竹内部長が強化に携わった過去2度の五輪から学んだ。午前3時に起床したら食事は4時。「ソチでは選手村からダイニングまで往復30分かかった。行くにも必ず日本代表ユニホームに着替える必要があり、女子は身支度もあり、より時間がかかる。深夜帯は最低限の品数で作り置きも多かった」。そこで、同じく午前決勝だった平昌大会から、選手村のフィギュア本部部屋に24時間出入り可能なコンディショニングルームを設置。機器の利用とともに、ご飯や電子レンジで温めるだけのおかず、スープ、発酵食品などを用意。「寝間着でもいい」ことで選手の負荷が減った。

【映像】全日本選手権の中継で浸透してきた、ジャンプの高さや滑走の軌跡の表示。それを手掛けている画像処理研究企業QONCEPT社と共同開発で、練習の映像を3人以上同時に撮影できるシステムを整えた。「通常は撮影者1人に対して1人しか撮影できないが、公式練習では男女は最大3人、同時に滑る。平昌では1人しか撮れずに選手から『あの場面ありますか?』と聞かれ、なくて申し訳ない問題が起きた」。今回は全景映像からAI(人工知能)に人体認識をさせ、個別にタップした選手を拡大できるよう技術が進化。コロナ禍で大会のバブル内に入れるスタッフが削減された中、今大会の参加者は1回35分…多くて1日2回の計70分間しか練習ができない中、より1回の重要性が増す中で役立った。

【開発】体温はパフォーマンスに大きく関与することから、冬季競技は体温を上げるのも課題。体温は起床後から夕方にかけて1日に最も体温が高くなることから、早朝時のパフォーマンス向上のために体温を上げる必要がある。「コアライザー」という「握るだけで遠赤外線等の効果により血液を温め、身体の芯から温まったような状態になれる」機器も活用された。さらには、スケート靴を筑波大の武田理研究員らと共同開発。開発の過程で、足部を曲げた時の靴の硬さの指数を作り、選手が好む靴の硬さを提示できるようになった。「強化選手へのヒアリングを重ねた中で、やはり多かったのが靴のトラブル。少しでも気付きになれば」と陰ながら貢献した。

ほかにもカップル競技のトライアウト等、強化に関わる事業を仕掛けてきた。「団体戦と個人戦が連続するのも4年に1度。しかし選手が競技人生を懸けるのが、この舞台。特殊な状況に対応するため連盟としてやってきた。ようやくメダルに結びついたのかなと思う」。竹内部長の笑顔が成果を物語った。【木下淳】

体内時計の調整ができる高照度光療法器具「ブライトライトME+プロ」
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温水が流れ、握った手を温めることができる「コアライザー」
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