オリンピック(五輪)会場でとれたカキは食べられないの? 東京五輪のボート、カヌー会場として新設された海の森水上競技場(江東区)。コースに設置された消波装置に、大量のカキが発生していたことが明るみになったのは約5カ月前のことだ。同会場でボートの五輪切符をかけた戦いが6日から始まる。カキ対策はどうなったのか。カキを食材として利用できないのか-。管理する東京都や、カキの専門家に聞いてみた。

消波装置に付着した大量のカキを除去する作業スタッフ(東京都提供)
消波装置に付着した大量のカキを除去する作業スタッフ(東京都提供)

乳白色の身が豊富な栄養素を含むことから「海のミルク」とも称されるカキ。磯の香り漂う高級食材で、とろりとした独特の食感も魅力の1つだ。

そんなカキが、五輪運営で邪魔者になってしまった。問題発覚の場所は、東京五輪会場として新設された海の森水上競技場だ。水面に設置された消波装置に大量のカキが付着。重みによってその装置は沈み、波の発生を防ぐ機能に支障が出た。

ボート競技ダブルスカル(21年1月11日撮影)
ボート競技ダブルスカル(21年1月11日撮影)

東京都オリンピック・パラリンピック準備局によれば、19年8月、ボート競技の国際大会時に指摘を受けて点検した結果、カキの存在が判明。その後、カキの「旬」となる冬場を迎えるにつれ、事態は深刻化した。東京都は19年12月から20年3月にかけて、合計約14トンものカキを一時的に除去。その費用は約1億4000万円に及んだ。

なぜカキが大量発生したのか。調査した都は、多くの植物プランクトンを含む水質や、海水と淡水が混じり合う塩分濃度がカキの繁殖に適していると推測。今年1月の時点で担当者は、想定外の事態を認めつつも、「頭を抱え込んでいるわけではありません。専門家の意見も聞きながら、今後の対策を検討中です」と話していた。

過去にカキなどが付着して沈んだ消波装置(撮影・河野匠)
過去にカキなどが付着して沈んだ消波装置(撮影・河野匠)

それから半年近くが経過し、解決の見通しは立ったのか。再び担当者を直撃したところ、「現時点で大きな進展はないですね…」。それでもカキの付着が目立ったコース北側などの消波装置はしばらく陸に揚げていたことで、被害拡大はなかったようだ。

同会場では6日、ボートの東京五輪アジア・オセアニア大陸予選が、強風による中止から仕切り直して1日遅れで始まる。消波装置の再設置に取りかかっていた4月下旬時点で担当者は「競技への影響はありません」と断言。カキ問題解決に向けては、拙速に結論を出すつもりはないとし、「一番大事なのは、この競技場が東京五輪後も長く使われること。維持管理コストも考慮しながら、最も効率的で効果的な方法を探しています」。

日本牡蠣(カキ)協会オイスターズジャパンの三村代表
日本牡蠣(カキ)協会オイスターズジャパンの三村代表

大量発生したのはマガキという種類で、生食のほか、鍋やフライなどにも使われる。都は廃棄物として焼却処分したが、食材として活用することはできないのか? 日本牡蠣(カキ)協会オイスターズジャパンの三村大輔代表(38)は、下水などが流れ込む東京湾奥は衛生面に大きな懸念があると指摘する。「加熱すれば、ただちに食中毒になる可能性は少ない」としつつも、「何が含まれているか分からない環境で育ったカキを口にすれば、死に至るおそれもあります」。

国内で流通しているマガキのほぼすべては養殖生産で、天然ものはゼロに近い。安全性のみならず、味や品質にも雲泥の差があるとの見方が一般的だ。採れたものを“東京五輪カキ”として販売すれば、収益につながらないだろうか? 三村代表は「まず売れないでしょうね」とにこやかに一蹴。記者の浅はかなアイデアは、海の藻くずと消えていった。【奥岡幹浩】

◆カキの種類 国内の代表的な種類といえるのがマガキ。産卵期は6~9月で、旬の季節は冬。肉質は厚く、濃厚な味わいが特徴とされる。市場に出回るほとんどは養殖生産されたもの。夏に旬を迎えるのはイワガキで、粒が大きく、身は厚くてジューシー。こちらは天然漁獲が中心だが、養殖生産されたものも流通する。ほかにもスミノエガキ、イタボガキなどが存在する。

◆海の森水上競技場 ボートとカヌー・スプリントの競技会場として、東京都の臨海部にある水路を整備し、19年6月に完成披露式が行われた。五輪各会場の建設整備費見直しの中で、当初計画されていた約491億円から約308億円に削減。仮設観客席は屋根の大部分が省略された。水門の管理コストなどから、年間の赤字試算額は約1億6000万円。コースの特徴としては、強い風が吹くことが珍しくなく、波も高くなりやすいとの声が多い。

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)