<96年アトランタ銀 ミスター社会人野球(ホンダ) 西郷泰之(43)>

 アマチュア野球をやっている選手にとって、全日本に入ってオリンピックに出るのは大きな目標でした。当時は社会人でも出られるチャンスがあって、私が出場した96年のアトランタ大会は銀メダル。とても幸せな経験でしたし、野球に対する考えが変わりました。

 キューバや米国などの選手と初めて同じグラウンドに立って、日本の常識が世界の常識ではないと強く感じました。体の大きさやパワーはもちろん、内野のノックから全然違うんです。日本の場合は打球の正面に入るとか、基本を大事にやりますよね。向こうの選手は「最終的にアウトにすればいい」という目的で、素手で捕ったりランニングスローも普通にやる。驚きましたけど、勝負しているんですよね。自分もいろいろなプレーに挑戦しようという気持ちになって、必死に練習しましたよ。

 00年のシドニー大会からプロの参加が認められて、アマチュアから選ばれることは減っていきました。勝つためには、技術の高い選手を入れるのは当然です。でも、私たちの立場からすれば、目標を残してもらいたいという思いはありました。チャンスがあるんだったら、オリンピックは何度でも出たい。本当に幸せなことですから。

 12年のロンドン大会から野球そのものがなくなったのは、ショックなんてもんじゃなかったですね。選手のモチベーションや目標がなくなってしまうのが、すごく寂しかった。それが東京五輪で復活する可能性が出てきたのは、本当にうれしいです。私は昨年限りで現役(一塁手)を退きましたが、アマチュアの選手にも出られるチャンスが欲しい。プロでなくても、そこに向けて頑張れる選手は絶対います。

 若い子たちにも、ぜひ目指してほしい場所です。自分の幅を広げるためにも、海外の枠にとらわれないプレーを見ることは大切です。去年、高校野球で早実の清宮(幸太郎)君みたいなすごい選手が出てきて、一気に注目されました。でも、高校で活躍した子が大学や社会人に入ると火が消えてしまう。不思議なんですけど、それがアマチュア野球の現状なんですよね。例えばですけど、プロの1軍のすごい選手たちと定期的に試合をして活躍できれば、きっかけの1つにもなると思うんです。アマチュアとプロが一緒に日の丸を背負って戦うオリンピックを、もう1度見たいですね。

(2016年3月9日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。