パートナーの鹿沼由理恵さんが自転車競技を始める時、パイロットを探しているということで、デビューする前の競輪学校(現養成所)時代に声をかけられました。前後2人乗りでペダルをこぐタンデム自転車で、パイロットの私は前でハンドルを預かる役目です。最初は「後ろの人の命を預かっている」という気持ちから、知らない間に上半身に力が入っていたみたいで、自転車から降りると、筋肉がバキバキになっていましたね。

ロードレースにはきついカーブもあります。私がハンドルを切るだけじゃなく、後ろも一緒に体を倒してくれるだけで曲がりやすくなるので、呼吸が大事。最初は声をかけていたのですが、鹿沼さんは繊細で、才能がある。ちょっと試乗すれば、すぐコースを覚えられるんです。本番では声がけもせず、ペダルを踏むことだけに集中できました。

本当はトラック種目でメダルを狙っていたのですが、結果が出ず「このまま日本に帰れない。たくさんの人に応援されたのに何やっていたんだろう」って…。その悔しさが、ロードでの銀メダルにつながったのかなと思います。パラリンピックはお客さんもたくさんいて「世界中の人が見ているんだ」と思うと、初めて味わう空気でした。もうあの緊張感は味わえないでしょうね。練習もきつかったですが、今となっては全部がプラスになっています。

パラリンピックロードタイムトライアルでパイロットとして銀メダルを獲得した田中まい
パラリンピックロードタイムトライアルでパイロットとして銀メダルを獲得した田中まい

日本にはパラサイクルの大会自体が少ないです。私たちも、パラリンピックに出るために海外の大会に出て出場ポイントを稼いでいましたし、大舞台を経験できたのも本番直前の世界選手権くらい。でも、強い国は、国内大会で代表の座を争っているんです。リオのあと「タンデムをやる人が増えて、競技大会が増えれば」と話していたのですが、4年じゃまだ変わらないのかな…。日常が戻ったら、パラサイクルやタンデムを始める人が増えてほしい。そのために、選手にとって目標となる大会が、日本でも増えてほしいです。

開催は1年延期になってしまいましたが、私もパラリンピック自転車競技は現地に行って応援するつもりです!(301人目)