昨年9月のコラムで、パラアスリートが優先利用できる「ナショナルトレーニングセンター拡充棟」(第2NTC)の最寄り駅からの経路に危険な場所がないか、日本パラリンピアンズ協会(PAJ)が調査をし、問題の改善を行政に申し入れたことをお伝えしました。あれからわずか1年。53項目のうち40が改善されました。

第2NTC周辺は、北区が歩道の老朽化した街路樹を伐採し、路面を改修して点字ブロックを敷設。警視庁が横断歩道に音響式信号機と点字の誘導ゾーンを設置しました。板橋区は途切れていた点字ブロックを最寄り駅からつなげ、駅の出入り口の点字ブロックは東京都建設局が整備しました。文科省、国交省なども所轄の問題箇所を改善してくれました。

日本の官庁や自治体はとかく縦割りで、管轄が細かく分かれています。その壁を取り払うのは至難の業。私たちも当初、どこにお願いするのか迷いました。音頭を取ってくれたのが内閣官房のオリパラ推進本部でした。昨年のPAJの調査報告をきっかけに、同本部内に「NTC周辺のバリアフリー化促進に関する関係省庁等連絡会議」が立ち上がったのです。

当事者たちが声を上げ、具体的な提案をしたことで、政府が動いて関係機関を集めてくれました。所轄の関係団体も責任を持って、ていねいに対応してくれました。本当にありがたいと思いました。連絡会議には地元のバス会社やJRなど民間事業者もメンバーに入っています。こんなに多くの関係者が街づくりに関わっているんだと、勉強にもなりました。

今回の好事例は、まさに街が生まれ変わるモデルケースだと思います。オリパラ推進本部は20年大会後になくなりますが、この大連携による街づくりは20年以降もレガシーとして残したい。そのためには当事者たちが声を上げやすい仕組み、そして、その声を吸い上げる窓口を整備していく必要があると感じています。

第2NTCは見学コースが充実していて、アスリートの練習風景を上から見ることもできます。きっと選手を身近に感じてもらえるはずです。全国の自治体や20年大会のホストタウン関係者もぜひ、駅から歩いて見学に来てほしい。きっと街づくりの参考になるはずです。私たちも積極的に情報発信していきたいと思っています。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。47歳。