射撃の東京パラリンピック代表第1号は22歳の女子大生だった。エアライフル男女混合10メートル伏射(上肢障がいSH2)の水田光夏(みか、桜美林大4年)は、10月の世界選手権(シドニー)で出場枠を獲得し、本格的に競技を始めて3年で代表に内定。13歳の時にシャルコー・マリー・トゥース病を発症したが、17歳で射撃と出会い、四肢の筋萎縮と筋力低下、感覚障がいと闘いながら東京を目指してきた。今月9日、全日本選手権で自己ベストを更新して初優勝した水田に聞いた。【取材・構成=小堀泰男】

■633・3点 初優勝

男女を通じて代表内定第1号になった。

「世界選手権の目標は自己ベスト更新でした。それが全然届かなくて『やってしまった~』という感じだったんですが、終了後に出場枠のことを聞いてホッとしたし、うれしかった。でも、いまだに実感がないんです」

世界選手権は631・7点。今月9日の全日本では633・0の自己ベストを更新する633・3点で初優勝した。

「ベストを0・1点でも超えるという目標が達成できてよかったです。途中で点数が低くなりましたが、気持ちの切り替えがうまくできたと思います」

厚労省の指定難病のため、電動車いすを使用する。

「中2の時、13歳の春に発症して、6月の体育祭では走れたんですが、進行が早くて秋には車いすに乗っていました。学校ではESS、英語でミュージカルを演じる部活に入っていたんですが…。クラシックバレエからダンスに転向しようと思っていた時でした」

競技歴は約3年。射撃を始めたのは?

「17歳の時にパラリンピアンの方々にお会いする機会があって、田口亜希さん(アテネ、北京大会連続入賞)のお話から射撃に興味を持ちました。紹介してもらった人材発掘イベントに参加して鳥居(健)コーチと知り合ったんです。18歳になって銃所持の許可を得てから鳥居さんの指導を受けるようになりました」

パラリンピックが目標になったのは?

「19歳の時、全日本に初出場しました。それまでは健常者と一緒に活動していて、初めての障がい者大会でしたが、2位になって、強化指定選手に選ばれて『いけるんじゃないか』と思えるようになり、海外の大会にも出場するようになったんです」

■本気で練習しなさいと

順調に成績が伸びてきている。

「今年2月のW杯(UAE)の成績が悪く、その2週間後の強化指定選手選考会が心配になった。日本代表になれなければ東京パラリンピックに出られない。その時初めて『本気で練習しないと』と感じて、そうしました。その結果、選考会で633・0の自己ベストが出せたんです」

ライフルの構えは左。左目で照準を見て、左手で引き金を引く。

「本来は右利きですが、右手の握力は0で左手が4・5キロ。右目も3歳のころから視力が弱かったけど、左目は1・5。利き目が左だったのはラッキーです。体に動かない部分が多いのは射撃ではメリット。私は大会でも緊張しないし、外しても動揺しませんから」

東京パラリンピックへの抱負は?

「今後もしっかり練習して課題を克服していけば点数は上がっていくと思う。これからも常に自己ベストを目標にやっていきたいです」

◆水田光夏(みずた・みか)1997年(平9)8月27日、東京都町田市生まれ。3歳からクラシックバレエを始め、ピアノやスキーにも親しんだ。森村学園初等部・中等部(横浜市)から町田市の特別支援学校、都立町田の丘学園を経て現在、桜美林大リベラルアーツ学群情報科学専攻の4年生。来春、白寿生命科学研究所への就職が内定している。パラ射撃全日本選手権エアライフル男女混合10メートル伏射(上肢障がいSH2)で17年2位、18年3位、今年優勝。家族構成は祖母、両親、弟。

◆シャルコー・マリー・トゥース病 原因遺伝子によって末梢(まっしょう)神経に異常が起こり、四肢の筋萎縮と筋力低下、感覚障がいが進行していく病気。発症率は1万人に1人とされ、現時点で有効性のある治療法はなく、厚生労働省の指定難病の1つ。一般的には20歳までに発症するが、50、60歳代以降の例もある。1886年に報告した3人の研究者の名前が病名になっている。

◆エアライフル10メートルの標的 黒い部分の直径は30・5ミリで中心はわずか同0・5ミリ。弾がど真ん中に的中すると満点の10・9点で、中心から0・25ミリずれるごとに0・1点ずつ得点が下がっていく。本戦で1時間に60発撃って、すべて的中なら満点の654・0点になる。

<パラ射撃メモ>

▼クラス 下肢のみの障がいのSH1と上肢障がいのSH2がある。障がいの程度によって使用できる射撃いすの背もたれの有無や高さが規定される。SH2の選手は銃を支える支持スタンドを使用。

▼競技方法 出場全選手が本戦で制限時間内に規定弾数を撃ち、上位8選手が順位決定のファイナルへ。水田のエアライフル男女混合10メートル伏射は本戦1時間60発(満点654・0点)、0点スタートのファイナルは150秒5発を2度行い、その後30秒1発を2回行うごとに最下位選手が脱落して順位が確定する。

▼東京実施種目 クラスや射撃姿勢、距離別に男子、女子、男女混合など個人13種目で団体戦はない。

▼日本代表 水田は世界選手権で24位も、東京大会出場枠未獲得の女性選手の中で1位になった。今後、出場枠がかかるのは来年5月のW杯(ペルー)のみ。男子が獲得できなければ開催国枠で1人が出場。