今年世界に飛び出した18歳が、卓球の東京パラリンピック代表に近づいている。男子知的障がいクラスの浅野俊(たかし、長崎・瓊浦高3年)は、初の国際大会だった7月のアジア選手権(台湾)でシングルスを制し、出場枠を獲得。来年3月末までに残されたわずかな条件をクリアすれば代表に決定する。右シェークハンドのオールラウンダー。高校の部活動で目指した全国総体優勝は果たせなかったが、パラリンピックの大舞台でビッグサプライズを再現する。

■オールラウンダー

力強く、速い。浅野のフォアのドライブは、相手のラケットをはじくような威力がある。174センチ、80キロのガッチリした体格を生かしたハードヒットが最大の武器だ。チキータ、フリックにもキレがある。相手の強打はカウンターで切り返す。中陣をベースに前陣でも自在に戦える、攻防兼備のオールラウンダーだ。

「自分の実力というより、運に恵まれて勝てた感じです」。6月のジャパン・チャンピオンシップを初制覇してアジア選手権代表になった。決勝の相手はアジア最強、世界ランキング5位の韓国選手。2-2からの最終第5ゲームは4-8からの逆転だった。相手がサーブに時間をかけて主審から注意を受け、動揺したことに助けられた。それでも初めての国際大会、初めての海外遠征で世界ランキング外から頂点に立った。

いとこに誘われて小学2年生から卓球を始め、1年後には長崎県で優勝した。健常者大会で常に県のトップレベルでプレーし、パラ大会にも出場。瓊浦高では全国高校総体優勝を目指したがかなわなかった。今年の県大会で団体準優勝、シングルス16強、ダブルス8強に終わった悔しさを東京パラリンピックへのエネルギーに変える。

両親は中国出身だが、卓球どころかスポーツ経験もないという。それでも小学校時代から指導する麻生貴枝未さん(45=瓊浦高女子外部コーチ)は素質を見いだした。「小さな頃から運動神経がよく、体が強かった。何より卓球が大好きだった。体力、技術とも金メダルを取る力はあると思う」。

世界5大陸選手権の王者に与えられる出場枠は獲得した。その後、中国、オランダで国際大会を経験。来年3月末までにあと1大会に出場し、アジア選手権に続く2度目の障がい認定審査をクリアすれば、東京パラ代表に決まる。

「どんなショットでも練習次第。練習しなければプレーは安定しないですから。でも、残りの高校生活を楽しみたい気もするし…」と浅野はニッコリ笑った。今後はフットワークを強化し、体に近い球を回り込んでたたく攻撃的プレーに磨きをかけていく。来春には東京都内の企業への就職が内定し、生活、練習環境も大きく変わるが「出るからには金メダルを取るしかないという感じです。上の(ランクの)人たちの方がプレッシャーあると思うから。僕は緊張せず、集中して戦いたい」。世界に飛び出してまだ半年の18歳は、大きな可能性を感じさせる。【小堀泰男】

◆浅野俊(あさの・たかし)2001年(平13)8月17日生まれ。長崎市立横尾小2年から卓球を始め、同滑石中、長与町立高田中を通じて長崎市のクラブチームでプレー。中学からパラ大会にも出場し、瓊浦高でも部活動と両立した。今年6月のジャパン・チャンピオンシップで初優勝し、今月初めのジャパン・チャンピオンズリーグでは準優勝。家族は中国出身の父忠司さん(51)母麗華さん(51)と姉美佳さん(28)。174センチ、80キロ。右シェークハンド。来春、医療機器製造販売のPIA(本社東京)入社が内定している。

<パラ卓球メモ>

▽クラス 障がいがプレーに影響する程度によって車いす1~5、立位6~10、知的障がい11の全11クラスに分かれている。車いすと立位はクラスの数字が小さいほど障がいが重い。ルールは健常者と同じで、卓球台やラケットも同様。

▽東京では 男子はシングルスが全クラスの11種目と団体戦が6種目、女子はシングルス10種目(車いす1、2を統合)と団体戦4種目が実施される。

▽出場争い 出場選手数は男子174人、女子106人でシングルス1種目に1カ国・地域から最多3選手が出場可能。まず、世界5大陸選手権の個人戦優勝者に出場枠が与えられる。さらに今年1月から来年3月までの国際大会の獲得ポイントによる世界ランキングによって出場が決定。来年4月には世界予選が予定され、さらに開催国枠、推薦枠などが設けられるが不確定な要素が多い。

▽知的障がいクラス 出場選手は男子12人、女子8人の狭き門だが、出場できればメダル獲得の可能性は高い。パラリンピック22競技中、知的障がいのクラスがあるのは卓球、陸上、競泳の3競技だけ。