【パリ9日=竹本穂乃加】初出場の安楽宙斗(17=JSOL)が、男子の日本勢初のメダルとなる銀メダルを獲得した。予選をトップ通過し、決勝前半のボルダーでは、4つの課題のうち第1課題を一発クリア。第2課題をただ1人完登するなど69・3点で首位につけた。後半のリードは76・1点の5位にとどまり、あと1歩及ばず逆転を喫したが、日本の高校生が世界に名をとどろかせた。

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あと数手-。金メダルへ伸ばした手は、空をつかんで安楽の体を地面に突き返した。「金メダルを目指して集中してこなしてきたので、悔しい気持ちの方が強い」。初出場にして、表彰台。日本男子に初メダルをもたらしたが「2位」と聞いた瞬間、表情には落胆の色がにじんだ。

5メートル以下の壁に設定された複数の課題をいくつ登れるかを競うボルダーと、12メートル以上の壁をどこまで登ったかの到達高度を競うリードの合計点で順位が決まる。前半のボルダーでは第2課題で唯一の完登を果たすなど、2位に1点差をつけて首位。続くリードは完登目前の90点台に乗せる選手が続く中、5番手の76・1点にとどまった。ボルダー終了からわずか2時間。「もう、いつ落ちてもおかしくなくて。リードは完敗ということですね」。疲労も影響し、中盤の難所で手間取って余計な力を使った。両種目で世界トップクラスの万能型の動きが乱れた。

「一番強い自分で挑もう」が、パリへの合言葉だった。昨季はボルダー、リードの2種目でW杯史上初の年間王者に輝いた。勲章とともに得た確かな自信。初めて挑む五輪舞台に向けても「一番強い自分が出せる」と、楽しみな気持ちが強かった。だからこそ、目指した色とは異なる銀メダルに満足感はなかった。

武器とするのは“脱力”クライミングだ。力まず、壁に吸い付くように手足をはわせる。無理はしない。W杯でパワフルなクライミングをする海外選手を見て「(スタイルが)違うんだ」とは感じたが、焦りはみじんもない。「勝つためにどうしようかと考えている。急いで力をつけようとも思わず、少しずつ力をつけつつ、とりあえず登ろう」。導かれるままに己のスタイルを作り上げてきた。

“脱力”は、練習姿勢にもにじむ。ボルダーの予選を首位通過しても、動画を見返し「ここが違うんですね。こうやればよかった」と向上心がやまないストイックな性格。一方で疲労がたまれば休息を優先する。大会直前になれば「そこから改善点を持ち出しても直りきらない」ときっぱり割り切る。競技への熱と冷静な判断力が、メダルの土台となった。

銀メダルを手にした17歳の高校生が夢見るのは「最強と言われるクラス」になること。表彰台に上ってもなお上を見る安楽は、さらに高い壁へ挑み続ける。

◆安楽宙斗(あんらく・そらと) 2006年(平18)11月14日、千葉県生まれ。小学2年時に父の影響で競技を始めた。千葉・八千代高に在学中の3年生。ユース時代からボルダー、リードで国際大会に出場。23年にはボルダーとリードの2種目でW杯史上初の年間王者となった。

○…日本代表の安井博志ヘッドコーチは「運命の分かれ道みたいなものをオリンピックに見た」と言った。昨年は筋力強化を図ってレベルアップ。金メダル候補として予選も首位で通過したが、最後に逆転され「全体的に硬かった。まだもう一段階上げる必要があった」と振り返った。それでも、頂点にこそ届かなかったが「安楽は複数種目でメダルを取れる可能性がある選手」と評価。28年ロサンゼルス大会に期待を込めた。