取材エリアのモニターに、表彰式が映し出された。
会場を二分する仕切りの奥にある本番プールから、フランス国歌の大合唱が聞こえてきた。
瀬戸大也(30=CHARIS)は「これ、表彰式(の景色)見たかったですね。でも、本当に日の丸が揚がって良かったです」と松下の銀メダルを喜んだ。「自分的にはすがすがしいです」とも言った。
世界記録保持者で地元フランスの22歳、マルシャンを追った。互いに得意なバタフライで0秒56差。250メートルまで2番手につけた。最終的なメダルラインは4分8秒台。一方で自身は11秒台の7位に沈んだ。自己ベストは4分6秒09で「4分8秒台でメダルだったら、前半楽にいって、後半に仕掛けることもできた。でも、久しぶりに前半から積極的にいけた。捨て身。後悔はないです」と笑った。
3年前はどん底だった。19年世界選手権2冠と輝きながら、東京五輪はコロナ禍で1年延期。常に前向きな男の思考が悪循環に陥り「延期なら中止にしてほしい」とまで思った。自国開催でメダルなし。それでも身近な人の支えは変わらなかった。昨秋にオーストラリアへ拠点を移すと、家族も海外居住を選び「たくさんの人が協力してくれた。幸せです」とかみしめる。
練習の側には大谷隆二さん(26)がいた。昨春からマネジャー兼アシスタントコーチを担う、早大の4学年後輩だ。人づての紹介で招き、大谷さんもオーストラリアに同行。それが初の海外渡航だった。今年5月。30歳の誕生日を祝われた流れで、こう切り出した。
「隆二、ちょっと早いけど、誕生日プレゼントね」
パリ五輪400メートル個人メドレーのチケットだった。7月15日で26歳。日本選手団入りがかなわない後輩を思うサプライズだった。マルシャンに食らいつき、力尽きた瀬戸は、18歳の松下を画面越しに見て言った。
「自分も頑張ってきて、後輩たちがつないでくれることが誇らしいです」
残すは8月1日からの200メートル個人メドレー。男子最年長の背中は、たくましくて、大きい。【松本航】



