男子体操の白井健三のインタビューでのコメントが強く印象に残った。「人生で一番心臓に悪い日だったけど、間違いなく一番幸せな日でした」。チーム戦の醍醐味(だいごみ)をこれほど的確に捉えた言葉を、私はほかに知らない。メンバー全員の命運までも背負った演技。脈拍計を振り切るほどの重責の分だけ、達成感も大きい。日本男子の首から下げた金メダルが勲章に見えた。

 あん馬で落下して、出だしでつまずいた山室光史は、少しばつが悪そうに「僕は応援するだけでした。みんなに感謝しています」と言った。でも、あの失敗がチームの気を引き締めたのかもしれないし、仲間のしょげた顔を何とか笑顔にと、連帯がいっそう強まった可能性だってある。勝負の世界では災いが福と転じることが山ほどある。それがチーム戦の妙味でもあるのだ。もっと胸を張っていい。

 それにしても日本選手の名が付いた技の何と多いことか。「シライ」「ヤマムロ」「カトウ」。それもGやHの超人技ばかり。完成には途方もない時間と失敗を重ねたに違いない。その野心と忍耐が金メダルを吸引したのだろう。肉眼で追えないほど高速回転する白井のひねり技など、まるで高品質高性能の日本製のマシンのようで、世界に自慢したくなる。

 もともと新技の考案は日本人の専売特許でもあった。体操の「山下跳び」や「月面宙返り」、バレーボールの「回転レシーブ」や「時間差攻撃」は、日本に金メダルをもたらすとともに、世界を驚かせてきた。「物づくり」の能力に長けた日本人の特性を、五輪でも生かしてきた歴史がある。その精神が今も若い世代に脈々と継承されているのがうれしい。

 最後にどうしても書いておきたいことがある。柔道の大野将平の美しさについて。決勝で見事な1本勝ち。その瞬間、ガッツポーズも、笑顔さえも見せなかった。自身初、日本男子柔道2大会ぶりの金メダル。長い重圧からついに解き放たれ、感極まらないはずはない。しかし、彼はこらえた。傷心の敗者へのさりげない気づかい。強さの奥に秘めた礼節と品格を見た気がした。24歳の若武者は、まさしく日本の武道家であった。

 未明から幸福なる記憶が刻まれたこの日、日本特有の夏の蒸し暑ささえ、何だか誇らしく感じた。【首藤正徳】