「僕、違う高校に行こうと思っています」-。プレミアリーグ・アーセナルに移籍するまでに成長した広島FW浅野拓磨(21)は中学時代、サッカーの名門高校への進学をあきらめかけた。三重・八風中で才能を認められ、地元の強豪四日市中央工への進学が内定していた。7人兄弟の三男坊。大家族だったため、中学時代から家計を心配してのことだった。熱心に誘った四日市中央工の樋口士郎監督(56)は当時を振り返る。

 「うちは遠征が多い。家に負担をかけたくなかったんでしょう。他の学校に行くと言うから、中学の監督と『お前の能力があれば日本のトップでやれる。3年間だけ親に無理を聞いてもらえ』と説得したんです」

 県立高校とはいえ安いのは授業料だけで、遠征など部活動の補助は限られた。同校は夏合宿や全国大会も含め、年間30日以上の遠征がある。バス代、宿泊費、食事代。費用はかさんだ。

 「1泊1万円としても年間なら遠征だけで最低30万円。逆に浅野クラスの選手なら、私立校に行けば特待生扱いで授業料も寮費も免除になったと思う」

 真面目で努力家。多くのプロ選手を育てた樋口監督だが、入学後は浅野をしかった記憶がほとんどないという。自転車通学で朝7時にはグラウンドに来てシュート特訓。流した汗の結晶は実を結び、2年生で臨んだ11年度の高校選手権では全試合でゴールを決め、大会得点王で準優勝に導いた。

 「チームが苦しい時に点を取ってくれた。五輪でも必ず、ここ一番の勝負どころでゴールを決めてくれると願っています」

 育ててくれた家族、そして恩師の期待を背負い、大舞台に立つ。【益子浩一】

 ◆浅野拓磨(あさの・たくま)1994年(平6)11月10日、三重・菰野(こもの)町生まれ。八風中から四日市中央工に進学、3年連続で高校選手権出場。13年広島入り、3年目の昨季にJ1初ゴール含む8得点を全て途中出場から記録し、ベストヤングプレーヤー賞受賞。今夏にアーセナルへの完全移籍が決まった。J1通算55試合10得点、国際Aマッチ5試合1得点。171センチ、70キロ。