リオデジャネイロ市で生まれた音楽「ボサノバ」の代表曲「イパネマの娘」。その名前の基であるイパネマビーチには、ラテンの太陽が降り注ぎ、肌が黄金色に輝く美女たちが、波打ち際を賑わせていた。楽園の様相だが、彼女たちの思考はかなり堅実なものだった。

 開幕約100日前(取材当時)に「リオ五輪に期待することは」と質問。開閉会式を行うマラカナンスタジアムの隣にある「リオデジャネイロ州立大」の法学部生、ベチーナ・ボーンホルドさん(19)は「この街は大きなイベントをするべきではなかった」と一蹴。セクシーなビキニには似合わない、眉間にしわを寄せた表情で「病院もインフラも経済もめちゃくちゃ。クビになるのが怖くて給料を4カ月ももらってないのに働いている人を知っている」と語った。

 同じ学部に通うガブリエラ・ポロニアさん(19)は、五輪に合わせて造った自転車専用橋の崩落事故を挙げ「あきれた」とため息をついた。2人は弁護士を目指し「格差社会を変えたい」と意気込んだ。

 リオ市から南西に1000キロ以上離れたポルト・アレグレ市から旅行に来たパウラ・アントニオスさん(19)はピンクのビキニ姿で、青い眼の美女だった。地元州立大の獣医学部で学ぶ彼女もまた「ブラジルには五輪よりまず対策すべきものがある。健康や教育にお金を使って」と訴えた。

 リオ市の高校生も同じだった。ダニエラ・マシエルさん(16)とラリサ・レモスさん(16)は「高校の中でもあまり五輪の話題にはならない」と語った。

 一方で海外旅行者は五輪を歓迎。ロシア・モスクワから来たナタリー・ヤコビエンコさん(22=大学生)は「リオの雰囲気はスポーツの祭典にピッタリ」と笑顔で金髪をたなびかせた。

 5カ月前に五輪に合わせてロシアから移住したとアナシタシア・デ・キエザさん(24=不動産業)は各国五輪委のホテルや借り切りマンションの仲介を行う。「大切な国際イベント。ずっとリオに住みたかったから、仕事ができてありがたい」。話を聞けたのは一部だが、国内外の受け止め方の違いが如実だった。