「エンヤードット!エンヤードット!」漁師のはやし言葉が街に響いた。東京オリンピック(五輪)の聖火リレーは17日、岩手県で2日目を迎えた。第3区間の宮古市では、重茂(おもえ)漁業協同組合の営業部長後川良二さん(62)がランナーを務めた。後川さんのトーチに聖火がともされると、漁協関係の仲間が大漁旗を振ってエールを送った。後川さんは「地元の方が応援してくれるのはうれしい」と感謝した。

後川さんの出身地重茂地区では、東日本大震災で漁協に所属する漁船が814隻のうち798隻が流出。漁協管内の1500人のうち死者・行方不明者が50人となった。「被害状況は想定以上でした。絶対に風化させてはいけない」。聖火ランナーを終えて改めて思いを伝えた。

震災後、漁協は復興の旗印として特産品を使用した「復興企画商品」を毎年3月11日に開発。アイデアマンの後川さんは、アワビがまるごと入ったカレーや、天然ワカメのパウダーを使用したチョコレートなどを考案した。10年目は集大成として「焼きうにクリームパスタ」を発売。今年の漁協全体の売り上げは過去最高の昨年20年を上回るペースだという。「復興」と名の付く新商品の開発は10年目で区切りを打つ。「熊本や広島など全国でいろんな被害に遭っている。いつまでも被災者ぶってはいられない」と話した。

五輪に対する思いも人一倍強い。柔道を小学生で始めた。宮古水産高のコーチの勧めで、80年モスクワ五輪では種目採用の動きがあったというロシアの国技サンボに転向した。高校2年の時には全国制覇を成し遂げた。五輪を目標に練習に取り組んでいたが、日本はボイコットし、参加自体が幻に。仕事と練習を両立していたが21歳の時、サンボの道を諦め仕事に専念した。「金メダルを取っていたら人生変わっていたかもしれません」と振り返ったが「今は聖火ランナーとして関われて良かったです」と前を向いた。地元の復興と五輪の成功を願い聖火をつないだ。