東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(82)が11日、東京・晴海で報道陣の取材に応じ、五輪延期の可能性について否定した。

組織委の高橋治之理事(元電通専務)がウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受ける五輪について「中止はない」との認識を語った一方「1年か2年の延期が現実的だ」との見方を示したことに、森会長が「正直、聞いて驚いた。率直に申し上げて『とんでもないこと言っちゃったな』と思った」と、まずは最初の感想を語った。

続けて、高橋氏と電話したことを明かし「話したら『大変申し訳ない。口が滑ってしまった。おわびしたい』とおっしゃっていた。一般論として『延期も考えてみたらどうか』と思っていたようで『個人的な考えだ』と。『ご迷惑をお掛けした』と言っておられた。あなたのように五輪にお詳しい方が、そういう軽率な発言は厳に慎んでほしいと申し上げました」と、同氏の謝罪や言い分を引用しながら火消しした。

延期の可能性について「1年、2年後に会場が簡単に使える保証はない。高橋さんが約束してくれるなら話は別だが」と懐疑的。「(22年に冬季)北京五輪があり(24年には)すぐパリ五輪。安易な考えだ」とした。その上で「今は(12日に採火式がある)ギリシャも神経をとがらせている。IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が言われたように、安全をしっかり確認していく。安全で安心な五輪へ、きちんと進めていきたい。それが我々の基本的なスタンス。したがって、今、方向を変えるとか計画を変えることは全く考えていない。消極的、悲観的なことは一切、考えてはいけない時期だと私は思っている。」と完全否定した。

そのウォール・ストリート・ジャーナル紙から「新型コロナウイルスの感染拡大が五輪開催に影響がないと、なぜそこまで自信を持っているのか」と聞かれると「(影響が)ないとは言ってません。あるとは思いますが、今は専門家たちが対応を考えている最中。WHO(世界保健機関)も近々、方針を示されると聞いている。心配は心配だが、組織委としては『予定通り開催する』と言うのは当然じゃないですか」と語気を強めた。

この日、発生から9年がたった東日本大震災にも触れ「(福島県)双葉町のニュースを見たが、いよいよ聖火リレーが始まるという期待を感じた。我々は応えなければならない」と力を込め「当然、難しい状況で自粛はしなければいけないが、ストップはいけない。1つ1つ気をつけて丹念に準備していくだけだ」と強調した。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も予定通りの開催を断言している。IOCには今回の報道を受けて組織委から説明した。「高橋さんは、火に油ではなくガソリンを注いでくれたようなものだ」。笑顔ながらも厳しく指摘し「組織委では3500人の職員が汗水を流して大変な努力をしている。その士気に影響するようなことはできない」と重ねて意欲を語った。

この日は都内の組織委に顔を出しておらず「病院で治療中だったが、報道を見て慌てて飛び出してきた」と明かした。そうして急きょ組織委で行われることになった取材対応の最後は、尽力する現場へのメッセージで締めくくっていた。