東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(82)が日刊スポーツのインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で来夏に延期した東京五輪の開閉会式を、パラリンピックと合同で開催する案も、演出家メンバーの中で浮上していることを明かした。

追加経費を大きく削減でき、世界的危機を乗り越えた特別な意味を表現することが狙いで、実現すれば史上初となる。ウイルスが来夏までに終息しなければ22年への再延期はないとし、その場合は「中止になる」と断言した。今回の「会長直伝」(不定期掲載)は2日にわたって掲載する。【取材・構成=三須一紀】

近代五輪124年の歴史で初となる延期が決定した「3・24」から1カ月が経過した。新型コロナの感染拡大が続き、組織委職員の9割以上がテレワークを行う中、大会会場の再確保など延期で生じた業務を進めなければならない苦しい状況。森会長に延期による今後の課題について聞いた。

-ほぼ構想ができあがっていた開閉会式の計画変更はあるか

森会長 これまでの計画は「平和時」につくった祝祭がストーリー。今度は人類が新型コロナとの壮絶な闘いに勝って迎える劇的な五輪であり、根本的に考えなおす必要がある。

-具体的にはどう変更するのか

森会長 野村萬斎さん率いる7人の演出家チームのあるメンバーが、五輪とパラリンピックでそれぞれ開閉会式を行う「4部作」ではなく「2部作」にする案を考えている。つまり、五輪の開幕時に五輪・パラの総合開会式をやり、パラの閉幕時に、総合閉会式をやるという案だ。相当な経費削減になるし、世界的危機を乗り越えた大きなメッセージにもなる。だが簡単なことではない。まず国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)が賛成をするか。既に販売した五輪閉会式・パラ開会式のチケットをどうするか。さらには放送権の問題と大変なハードルがある。関係者全てが、2021年に延期をしたことが五輪史上初めてのことだという重大さに気付いてほしいものだ。

-他のアイデアは

森会長 ウイルスと大きな闘いをした後、これまで同様「大名行列」のようなことをやっていて良いのかという意見もある。

以前から長時間の入場行進が選手の負担になると問題視されてきた上、新型コロナが発生し密集、密接を伴う大行進に再考の余地があるとの考えを示した。

-聖火リレーの変更は

森会長 ランナーが既に決まっているので基本的には変更する必要がない。

-大会後のマンションとして既に販売済みの物件もある選手村が大きな課題

森会長 (特定建築者の代表)三井不動産(レジデンシャル)は、困難ともいえる大変な問題だからできるだけ協力すると、言ってくれている。一方でマンションに入居する予定の契約者もいらっしゃる。私たちが直接係る問題ではない。

-追加経費が3000億円以上とも言われている

森会長 まだ全然分からない。初めから4000億円、5000億円と数字だけが独り歩きしたら、計画もそれに引っ張られてしまう。まだ精査を慎重にやろうと先日、コーツ氏(IOC調整委員長)とのテレビ会議で合意している。

-追加経費について国庫負担は求めていくか

森会長 国は、これまで通り東京都が負担すべきだと言うと思う。都に潤沢な予算があると分かっているから。新型コロナの休業補償でも都が国を先行した。ただ、安倍総理が延期でリーダーシップを発揮したので、政府にもお願いはしたい。延期経費は既にある役割分担を踏まえつつ、今後しっかり関係者と協議だ。

-IOCも負担すべきではないか

森会長 我々もそう主張している。精査し、双方納得した上で決めるべきだ。

-マラソン会場の札幌移転のIOC負担金も、あいまいなままだ

森会長 IOCは負担すべきところは負担すると言っており、決まっている。

-来夏、新型コロナの終息が見込めなかった場合、22年への再延期はあるか

森会長 ない。その時は中止。過去にも戦争など、そういう問題が起きたら普通は中止になる。今回は見えない敵と闘っている。それを何とか押さえ込み平和裏に来夏、五輪を開催しようと決めた。これは人類の賭けだ。世界中がウイルスに勝利した後、五輪ができたら今までの五輪より何倍も価値のある大会となる。そう思わないと苦労と努力が報われない。(つづく)

◆森喜朗(もり・よしろう)1937年(昭12)7月14日、石川県根上町(現能美市)生まれ。早大卒。産経新聞社、議員秘書を経て69年衆院選で初当選。83年第2次中曽根内閣で文部相として初入閣した。00~01年に首相。衆院議員を14期務め、12年に国会議員から引退した。東京五輪招致委の評議会議長を務めた後、14年1月、組織委会長に就任した。