東京五輪・パラリンピック組織委員会の次期会長候補に挙がった日本サッカー協会(JFA)相談役の川淵三郎氏(84)の人事案について、武藤敏郎事務総長(77)が事前に了承していた可能性が13日までに出てきた。複数の関係者によると武藤氏は森喜朗会長(83)から「川淵案」を伝えられていたというが、12日の会見では「メディアの方から聞いた」と述べ、食い違っている。

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武藤氏は12日の会見で、川淵氏が会長候補に挙がっている事実を知ったのは「メディアの方から聞いた。しかも、川淵さんの映像が映っていて、おっしゃっていることが確認できる形だった」と説明した。

組織委の定款上、森氏が次期会長を後継指名できる仕組みにはなっていない。武藤氏は川淵氏の映像での話を聞き「これは縷々(るる)ご説明したような手続きになるということを、ご存じだとは思うが、念のためにこういうことですと申し上げる必要があると思った。それが電話した理由です」と会見で述べた。

武藤氏は川淵氏に11日午後10時過ぎまでに数回電話をしている。川淵氏はこの電話を受け「武藤さんは(具体的なことは)絶対に言わないもんね。何となくそういう方向に誘導していた」と感じ、白紙撤回を決断した。

しかし、川淵氏や関係者によると武藤氏の会見コメントと食い違う。11日午前、武藤氏は森氏から辞意を伝えられ、後任候補として川淵氏の名前も伝えられたという。川淵氏も同日夜、自宅前の取材で森氏から伝えられた言葉として「武藤事務総長も『川淵さんならいい』」と言っていたことを明かしている。

武藤氏が事前に「川淵案」を把握していたのなら、会長選考の公平性、透明性の観点をなぜその時点で指摘しなかったのか。なぜ「川淵さんならいい」と言ったのかが分からない。一方、会見では「会長選任はやはり国民にとって、透明性の高いプロセスが不可欠」と述べている。

川淵氏が報道陣に全てを話したことにより、SNS上で「密室人事」などと批判が拡大。森氏の発言にとどまらず、後継指名まで森氏の影響力が残るとなれば世論の反発は確実で、官邸や組織委が火消しに動いた。結果的に「川淵案」は立ち消えになったが、事前に情報が漏れていなければ、組織委の自浄作用が適正に働いていたのか疑問が残った。