【アテネ17日=三須一紀】東京オリンピック(五輪)の聖火引き継ぎ式が19日、第1回近代五輪(1896年)が開かれたパナシナイコ競技場で行われる。新型コロナウイルスの世界的感染拡大により無観客、報道陣も少数という厳戒態勢で実施する。迎え入れるアテネ市内も、政府からの要請で飲食店は軒並み閉店するなど、都市機能がまひ。世界遺産パルテノン神殿を望む観光地では閑古鳥が鳴き、とても五輪の足音を祝う雰囲気ではなかった。

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東京五輪への聖火引き継ぎ式を、歓迎したくても、できない。欧州連合(EU)が第三国からの入域を30日間制限する方針を示すなど、アテネは異常事態のまっただ中にある。

紀元前に建てられた世界遺産、パルテノン神殿などの古代遺跡近くのモナスティラキ広場周辺も完全なシャッター街と化していた。その中で開店していた数少ない土産店を16日午後3時ごろ取材した。店主の息子ヴァシリスさん(39)は、諦めるかのような笑みを浮かべ「朝9時30分から店を開けているけど、買い物をした客はゼロだよ」と話した。

この一帯は、アテネ中心街で家賃も高い。「光熱費も人件費もある。店を開けているだけでお金が出ていく。経済的にかなりきびしい」。政府に対しても「全く具体的なことを言わない。この政策がいつまで続くのか全てはっきりしない」と不満をもらした。

飲食店が軒並み閉店する中、サンドイッチなど、テークアウトのみ営業するカフェがあった。30代のカスリン・アンティさんによると、こちらも朝9時から開店し、午後2時ごろまでで客はわずか3人。様子見で開けてみたそうだが「明日からは閉めるしかない」とため息をついた。

店の経営に関わる一大事に「1カ月以上は続いてほしくない。元の状態に戻って欲しい」と切実だ。こんな時節とかぶってしまった聖火引き継ぎ式のことを聞いてみたが「そんなこと考える余裕はないわ」と、あきれられてしまった。

スーパーではレジに並ぶ行列が異様に長い。その理由は個々人の距離が1メートルほど開いているからだ。感染防止のため、政府からそのような注意が促されているという。

引き継ぎ式が行われるパナシナイコ競技場に足を運ぶと、ちらほらと観光客が記念撮影をしていた。競技場内にはまだ、基本的に何の準備も施されていない。今日18日に予定されていたリハーサルも中止となり、ぶっつけ本番で聖火は東京に引き継がれる。