【田中刑事(上)】コーチ3年目、30歳で迎えた転機 〝取扱説明書〟に至るハードル

日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。

シリーズ第43弾はコーチやプロスケーターとして活躍し、現役時代は2018年平昌五輪に出場した田中刑事さん(30)が登場します。

2024年11月22日で30歳の節目を迎え、年明けの1月末でひょうご西宮アイスアリーナを拠点としてのコーチングを終えました。

3回連載の上編では新たな挑戦を選んだ理由、指導に向き合う姿をお届けします。(敬称略)

フィギュア

◆田中刑事(たなか・けいじ)1994年(平6)11月22日、岡山・倉敷市生まれ。小1からスケートに親しみ、小3から林祐輔コーチに師事。羽生結弦、日野龍樹ら同期と、小学生時代から全国大会でしのぎを削った。11年世界ジュニア選手権銀メダル、全日本選手権は16年から2位、2位、3位。18年平昌五輪に出場し、世界選手権は17年から4季連続で出場権を獲得した。21~22年シーズン限りで現役引退し、コーチ、プロスケーターとして活躍。刑事の名は「正義感強く育って欲しい」と父が命名。172センチ。

コーチ修行のためアメリカへ

寒波のニュースが連日続いた日本と対照的に、2025年2月上旬の米カリフォルニア州は最高気温が20度を超える日もあった。

西海岸屈指の大都市ロサンゼルスの中心部から、南東に車で約1時間半。サンディエゴとの中間にある人口約30万人のアーバインに「Great Park Ice&Fivepoint Arena」がある。

米アーバインの「Great Park Ice&Fivepoint Arena」(2022年6月10日撮影)

米アーバインの「Great Park Ice&Fivepoint Arena」(2022年6月10日撮影)

外にはヤシの木がそびえ、穏やかな日常を見守る。広大な敷地に建つ施設はリンク4面を備える。2022年北京五輪金メダルのネーサン・チェンも数年前まで鍛錬を積み、名伯楽ラファエル・アルトゥニアンもこの地を拠点としてきた。

コーチのキャリアが3年目の終盤に差しかかった田中は、その空気感を全身で吸収していた。

ちょうど6年前の2019年2月、アーバインからほど近いアナハイムで開かれた4大陸選手権の練習用リンクも同じ場所だった。

4大陸選手権のフリーから一夜明け、心境を語る田中(2019年2月10日撮影)

4大陸選手権のフリーから一夜明け、心境を語る田中(2019年2月10日撮影)

再び訪れた経緯は、意図したものではなかった。

「『コーチとして勉強に行きたい』という思いを持っていました。最初はハーネスを覚えにいって、そこからいろいろな場所に足を運べたら…と考えました」

ジャンプ練習で用いる補助器具のハーネス。コーチが釣りざおのようなものを手にし、選手の空中動作をサポートする。

日本、とりわけ拠点とする西日本で、ハーネスを専門に操れるコーチがいない点も頭の片隅にあった。自身の現役時代にも1度しか使ったことがなかった。

「自分のコーチとしての武器として持ちたい思いがありました。ハーネスそのものはネットで買えますが、教えるのであれば、しっかりと一流のものを見た上で使いたいと考えました」

米アーバインのリンクでハーネスを手に笑顔を見せる田中刑事さん(中央)と竹村潤一さん(左)、ショーン・ラビットさん(田中さん提供)

米アーバインのリンクでハーネスを手に笑顔を見せる田中刑事さん(中央)と竹村潤一さん(左)、ショーン・ラビットさん(田中さん提供)

米国へと飛び立つ前日の1月31日。

ひょうご西宮アイスアリーナを拠点としての指導に終止符を打った。

本文残り79% (4610文字/5869文字)

大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。