【箱根駅伝2023あえぐ名門〈5〉】いかに強くするか 1年山口、2年石塚の伊勢路

早稲田大学競走部。東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)で13回の総合優勝を誇る伝統校は、今年1月の大会でシード落ち(総合13位)を喫した。栄光から遠のく苦境に、OBの名ランナー花田勝彦(51)を6月から監督に迎え再建にかける。来年1月の箱根駅伝を目指し、奮闘する名門校への密着ドキュメント。第5回は6位でゴールした全日本大学駅伝(11月6日、熱田神宮西門前~伊勢神宮内宮宇治橋前)から。8区間106・8キロの戦いで、一時は2位まで順位を上げる功労者となった2人のランナーを中心に振り返る。(敬称略)

陸上

全日本大学駅伝、スタートする第1走者たち。早大の1区は1年間瀬田、区間11位だった

全日本大学駅伝、スタートする第1走者たち。早大の1区は1年間瀬田、区間11位だった

4区3位山口智規 予選会失速を挽回

監督車から声が飛ぶ。

「大丈夫だから」

花田が視線を送る先には、四日市市から鈴鹿市へと向かう4区を走る山口智規(1年)の姿があった。

5000メートル高校歴代3位(当時)の記録を持ち、福島・学法石川から期待も大きく入学してきた大型ルーキーは、学生3大駅伝のデビュー戦を迎えていた。

その指示は安心させることに主眼を置いていた。

3週間前の突然の失速が、本人にも指揮官にも「落ち着き」を最優先させていた。

10月15日の箱根駅伝予選会。日本人の先頭集団の後方でレースを進めていた山口は、18・5キロ過ぎに過呼吸の症状を起こして、以降の記憶がおぼろげにゴールした。

医務室に直行。初めての経験ではなかったが、一抹の不安を残しての伊勢路となっていた。

「落ち着いて余裕を持っていこう」

レース前から山口は花田と確認し合った。

予選会の帰り道では、すでに荷物を持って自力で歩き、その後の練習でも後遺症のようなものは感じさせなかったが、慎重に。

過度に追い込まなくとも、十分なレースができる実力が備わっている。その確信も2人にはあっただろう。

4位で受けたタスキを胸の「W」の文字の上にかけ、10・2キロ過ぎに順大の石井を抜いて2位に。残り1・8キロで引き離して、トップの駒大と1分1秒差、区間3位の力走で存在感を放った。

臙脂へのあこがれ-。

早稲田で戦うことを望んだのは、中学生の頃からだった。

陽光注ぐ中、4区で2位に押し上げる力走をみせた山口(早稲田スポーツ提供)

陽光注ぐ中、4区で2位に押し上げる力走をみせた山口(早稲田スポーツ提供)

野球か陸上か、中2で日本一への距離を探る

「やっぱり現実を見ると野球で稼いでいくのが厳しそうだった。陸上の方が可能性があるかなって」

幼少期から没頭した野球。中学校ではクラブチームに所属しており、部活では陸上部を選んだ。その練習の割合は7:3だったが、小柄な1番ショートには、現実を直視できる強さがあった。

スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。