【箱根駅伝2023 あえぐ名門〈3〉】不安募る記録会 言葉でチームを締めたエース

早稲田大学競走部。東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)で13回の総合優勝を誇る伝統校は、今年1月の大会でシード落ち(総合13位)を喫した。栄光から遠のく苦境に、OBの名ランナー花田勝彦(51)を監督に迎えて再建に乗り出した。来年1月の箱根駅伝を目指し、奮闘する名門校への密着ドキュメント。第3回は4位通過を決めた予選会(10月15日)までの足跡を追う。(敬称略)

陸上

9月24日の早稲田大学記録会10000m、先頭集団3人だけでゴール。左から、佐藤、山口、井川

9月24日の早稲田大学記録会10000m、先頭集団3人だけでゴール。左から、佐藤、山口、井川

次々脱落した9/24の1万M、設定通りは3人だけ

ヒグラシだろうか。

虫の鳴き声が、日が沈んだ静かな秋の暗闇に響く。

早稲田大学所沢キャンパスの織田幹雄記念陸上競技場、オレンジの照明に映し出された茶色のトラックに、選手たちがスタートを待ちながら横一線に並んだ。

9月24日午後6時過ぎ。

早稲田大学競技会。一般的に「記録会」と呼ばれる各組織によるレース、その早稲田での走りが始まろうとしていた。

「チリチリチリ」と鳴く生きものの声に、「パチ!パチ!パチ!」という音が混じる。

選手たちが己の体を平手でたたいて刺激を入れる音が、いまから1万メートルを走る15人の仲間、それぞれを鼓舞するように聞こえる。

約3週間後に迫った箱根駅伝の予選会に向けて、ここでどんな走りをできるのか。夏合宿を完遂した自信を、好走で記録として証明したかった。

1週400メートルを25周。午後6時29分、スタートは切られた。

花田が1周ごとに声をかけていく。

「しっかりペースね」

「力まず!いいよ!」

「自信を持って」

「みんなで協力していくぞ!」

開始から最上級生、4年の井川龍人(福岡・九州学院)が先頭で6人の集団を引っ張っていく。意志を感じる走りだ。

仲間に何かを伝えたいのか、ひたすらにその背中に仲間の視線を集め、リズムを刻んでいった。ただ、その人数はすぐに減っていった。

スタートから集団を引っ張った井川に代わり、1年生の山口智規(学法石川)が前に出た5000m手前では、すでに集団は数人に。

「力まず滑らかに」と声をかける花田の呼びかけは、限られたランナーの耳にしか届かなかった。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。