【秋場所こぼれ話 初日~7日目】大の里と藤ノ川のルーティンの狙いとは?

秋場所は、横綱大の里の6場所ぶり6度目の優勝で幕を閉じました。10月に定年を迎える立行司、39代木村庄之助の最後の本場所でもありました。

「秋場所こぼれ話」は、本場所中に書き切れなかった話をお届けします。

まずは初日から7日目までの前編です。

大相撲

後継者は藤ノ川?

初日

朝方、どうしても書きたかった記事を出した。2カ月前の名古屋場所の時に取材していたものだ。名古屋場所で10勝を挙げて大関復帰を決めた安青錦関は、そのまま優勝した。大関から陥落し、関脇として臨んだ本場所。付け人ら安治川部屋の若い衆は、安青錦関のことを「大関」と呼んでいいものか迷っていた。

会社員でもそういうケースはあるかもしれない。肩書で呼ぶ会社の場合、つい先日まで「○○部長」と呼んでいた人が、何らかの理由である時から課長や平社員になった時。どう呼ぶのが失礼にあたらないのか。幸い、日刊スポーツの編集部門の場合、肩書で呼ぶ習慣は昔からない。「○○さん」と名前で呼ぶので、私が社内で困ったことはこれまでない。堅苦しくなくていいと思っている。

懸賞を受け取る安青錦(撮影・小沢裕)

懸賞を受け取る安青錦(撮影・小沢裕)

36年ぶりのイギリス出身力士となった栄誠さんが、序ノ口デビューした。場内放送では「イングランド出身」とアナウンスされた。間違いではないが、イギリス出身でなくイングランド出身としたのはなぜだろう。取組後、本人に聞いたが「自分はどっちでもいい。あまり気にしてません」。なぜなのかは、本人もよく分かっていないようだったので、かねて栄誠さんを親身になって面倒を見ている行司の木村元基さんに聞いた。どうアナウンスすることが適切かは判断が分かれるところだが、本人のためを思って周囲がしっかり考えていることはとてもよく伝わった。

城勝雄(手前)の攻めを土俵際でこらえる栄誠(撮影・小沢裕)

城勝雄(手前)の攻めを土俵際でこらえる栄誠(撮影・小沢裕)

若元春関に、フジテレビで場所前に放送された「ジャンクスポーツ」での後日談を聞いた。もちろん、取組についての取材がひとしきり終わった後で。放送されたのはコストコ爆買い企画で、藤ノ川関と一緒に出演していた。収録は名古屋場所前。浜田雅功さんに買ってもらった商品は、その日のうちにすべて運ばれてきたそうだ。藤ノ川関の出演は、若元春関による指名だった。「同じ一門ですし、しゃべると面白いので。(関取衆の)バラエティー班は固まっているので、もっと新しい人を入れていかないと」と話していた。若元春関は、他媒体での発言からも分かるように、角界全体が盛り上がることを常に意識している人だ。

番組内では、兄の若隆元さんのためにコーヒーメーカーとカートリッジを買ってもらっていた。後日、若隆元さんに聞いた。「名古屋から帰ってきたら、枕元に置いてあったので、びっくりしました。使ってますよ」。

塩をまく若元春(撮影・小沢裕)

塩をまく若元春(撮影・小沢裕)

大の里関が土俵に向かう直前の花道で、付け人に向かって、何度も目を見開いている。花道でのこの最後のルーティンを、NHKが中継していた。なかなかインパクトがある。なぜこのルーティンを行っているのか。取材してみる必要がありそうだ。

大の里(左)は大栄翔をはたき込みで下す(撮影・小沢裕)

大の里(左)は大栄翔をはたき込みで下す(撮影・小沢裕)

取組は際どかった。大の里関は土俵際でジャンプしたが勝った。物言いはつかなかった。

39代木村庄之助さんにとって最後の本場所。差し違えはしてほしくない。庄之助さんは、15日間必ず、結びの一番だけを合わせる。出場している横綱は1人。庄之助さんが美しく最後の花道を飾れるかどうかは、大の里関にもかかっているのかもしれない。

懸賞を受け取る大の里(撮影・小沢裕)

懸賞を受け取る大の里(撮影・小沢裕)

幕内最後の3番は、理事室で八角理事長(元横綱北勝海)のコメントを聞きながら見た。NHKが庄之助さんにとって最後の本場所であることを紹介すると、理事長は思い出を口にした。2人は2学年違いで、入門はともに元横綱北の富士の九重部屋。「私が入った時は、3人が同じ部屋だった。北の富士の親方の自宅の方。もう1人は床山だった」。「定年か…」としみじみ言っていた。

初日にあたり、後輩の相撲担当記者、山田遼太郎記者と飯岡大暉記者が新しいXアカウント(@nikkan_sumo)を立ち上げた。こちらもどうぞよろしくお願いします。

帰宅後、録画しておいたVIVANTをみた。次回から2週間はアジア大会のためドラマの放送はない。本場所中は忙しいので、個人的にはちょうどいい。

藤ノ川のルーティン

2日目

9月5日に50歳になった翔傑さんが勝った。この人のすごいところは、今でもガンガン稽古しているところ。大兄弟子になると、稽古はそこそこにちゃんこ長として部屋を支える力士もいる。こういう生き方も意義があると思っているのでまったく否定しないが、翔傑さんには別のすごみがある。

花道奥で話を聞いていると、呼び出しの幸吉さんがペットボトルのお茶、弘行さんがあんぱんを持ってきた。ささやかな誕生日プレゼントのようだ。みんな笑っていた。愛されキャラでもある。

駒丿富士(右)を攻める翔傑(撮影・垰建太)

駒丿富士(右)を攻める翔傑(撮影・垰建太)

今場所前、テレビ朝日の「タモリステーション」で大相撲が特集され、広報部長の藤島親方(元大関武双山)が出演していた。藤島親方は現役時代、タモリ倶楽部の空耳アワーに作品を投稿して採用されていた。スペインのアーティスト「ラス・ケチャップ」のヒット曲アセレヘで、「Y LA GOZA Y LA CANTA」というスペイン語の歌詞を「いらん、おっさん、ニラ買った」と空耳していた。

今回のタモリステーションでは、番組側がこのエピソードを紹介しようとした。しかし、藤島親方が番組の雰囲気を損ねてはいけませんからと、やんわり断ったそうだ。

花道から土俵に向かう直前の力士のルーティンは、意識的に見に行かないと分からない。初日のようなことがなければ中継では映らない。支度部屋でコメントを取る取材をしていると、その場面は見ることができない。

なので、この日は藤ノ川関のルーティンを見に行った。付け人の漣さんからペットボトルを受け取って一口飲むと、えずいていた。これはルーティンではなく、緊張によるものだろうと思っていた。緊張のため、花道でえずいている若い衆はよく見かける。

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。