あるオートレーサーが、大病を克服して年末の大舞台へ向かう。加賀谷建明(44=川口)の劇的な復活劇の裏には、ファンや関係者、そして今は亡き同期への思いがあった。


加賀谷建明
加賀谷建明

脊髄と脳にできた腫瘍摘出手術のため、約3カ月間の休み期間を経て、11月の飯塚G1開設記念レースで復帰。リハビリ明けとは思えない走りで優勝戦まで進むと、得意の湿走路で見事にG1初制覇を成し遂げた。

「まさか、このタイミングで優勝できるとは。20年も選手を頑張ってきて、G1を優勝するのは難しいものだと思っていました」。表彰式では涙を流した。

そもそも復帰自体が危ぶまれた。「(医者から)もしかしたら走れないかもしれない、とも言われていたので。それでも、入院中はSNSで多くのファンの方が励ましの声をかけてくれて、周りの選手や仲間も心配してくれて」。

闘病の末、無念にもレース場に帰れなかった同期・重富大輔さん(4月に42歳で死去)を思った。「手術の時に(重富)大輔のことがずっと頭に浮かんでて。(優勝戦が)雨になったのも大輔が背中を押してくれたのかもしれませんね」。重富さんは口数こそ少ないが、周りに優しく、そういう粋なことをしそうな人物だった。

飯塚の後は、浜松G2オートレースメモリアルも優勝と勢いは止まらない。「出来過ぎでびっくりしてます。年末への自信も付きました。出るからには優勝を目指したい」。27日から川口で行われるSGスーパースター王座決定戦トライアル戦でも主役を目指す。