九州勢唯一のファイナリスト中川誠一郎(39=熊本)が“オニアツ先行”で、16年静岡日本選手権(ダービー)以来のG1・2勝目を飾った。単騎で先頭に立ち、約1周を逃げ切ってKEIRINグランプリ(GP)一番乗りを決めた。

16年静岡ダービーと同じ単騎での優勝だ。孤高の天才レーサー中川が、2つ目のタイトルをつかんだ。「G1は2つ取って一人前。これで一人前になれた」と白い歯を見せた。G1初開催の別府バンクで、気持ち良さそうに3度宙を舞った。表彰式の締めでは自ら音頭を取ってファンと「オニアツ!」と絶叫。誰もが笑顔になっていた。

キャッチコピー「オニアツ。」にふさわしい、アツい逃走劇だった。打鐘で4番手に追い上げると、和田真久留と並走に。外に浮いた中川はこれで「腹をくくった」と一気にスパートした。「昨日(準決)で1周行っていたので、落ち着いて4角を回れた」。前半200メートルの推定タイムは10秒9。リオ五輪までナショナルチームで磨いたスーパーダッシュは、不利な単騎逃げ優勝という荒技を可能にした。

16年のダービーは、熊本地震直後だった。「故郷に希望を」という思いが初G1を呼び込んだ。ところが、17年2月の奈良G3で右鎖骨と肋骨(ろっこつ)を骨折。「すさんでいたというか、やる気がなくなっていた時期もあった」。歓喜の瞬間以来、G1決勝すら遠ざかった。

昨年2月の熊本競輪再開の報が、魂に火を付けた。「競輪人生も長くない。最後にもう1度やってみようと。(熊本競輪を)走ってこそ復興だと言い続けてきた。走るまでは上で維持して頑張る」。熊本のファンの前でSSの勇姿を見せる-。その思いを新たにしていた。

GP一番乗りが決まり「うれしい。ちょっと上から、高みの見物で…」と笑わせた。オニアツな走りと笑顔が似合う男が、2度目のGPで頂点を目指す。【山本幸史】