1次リーグ全72試合が終わった。最後の最後に今大会最高の試合があった。

アルジェリアとオーストリアは仲良く引き分ければ、ともに決勝トーナメントに進出できる状況だった。ただどちらかが勝利すれば、負けたチームは敗退する。“無気力サッカー”を生む下地は十分だった。人間の心理行動を見る上でも興味津々の試合となった。

1982年スペイン大会の1次リーグで「ヒホンの恥」と呼ばれた一戦がある。

大混戦となったグループの最終戦で、西ドイツとオーストリアが対戦。当時は同時刻開催でなかったため、既に試合を終えたアルジェリアの結果を受け、西ドイツが1~2点差で勝利すれば、オーストリアとともに2次リーグ進出が決まる状況となった。

そこでどうなったか? 前半10分に西ドイツが先制点を挙げると互いに攻めることを放棄した。ゴールに向かうことなく、残りの80分をボール回しに終始。激しいブーイングも意に介さず1-0のまま終わった。

くしくも、その時に敗北しているアルジェリア、そして無気力を実行したオーストリアが絡んだ因縁の試合だった。果たして。

予想外とも言うべき点の取り合いとなった。オーストリアがリードすれば、アルジェリアが追いつく展開で、2-2のまま後半30分を過ぎた。

ここから状況は次第に変化する。ともに勝ち上がるために失点を避けることが大前提。引いて守りを固めたオーストリアは、アルジェリアのパス回しに食い付かず陣形を固めたまま。にらみ合いの状態が続いた。想定された展開に「やはりそうか」と思った。

心理学に「プロスペクト理論」というものがある。人間は得る喜びよりも失う痛みの方が強い。だから本能的に「損失回避」の行動を取るのだという。例えば100万円もらえる喜びよりも、100万円を失うショックの方が大きい。

サッカーの世界でも、独特の勝負哲学を持つ町田の黒田剛監督は「悲劇感」という言葉を持ち出し、失うことへの怖さを常に説いている。

人として「損失回避」は当たり前だと考える。そこに勝ち上がることを最大のプライオリティーとしているW杯の舞台となればなおさらだ。

しかしこの試合は違った。

仲良く試合終了と思われた後半追加タイムだった。アルジェリアは安全な外回しのパスから意表を突き、縦パスを通した。巧みな連係からFWマレズのゴールで勝ち越した。

ハシゴを外された格好のオーストリア。「それはないだろ!」という声が聞こえてもおかしくない、想定外の事態だった。

それでも火事場のくそ力を発揮する。わずか2分15秒ほどの終了間際のラストプレー、オーストリアは崖っぷちから追いついた。

激しい打ち合いの3-3。劇的というか、もう驚きしかない。筋書きのないドラマとは、まさにこのことだろう。

前日会見で両チームの監督は「引き分け狙いはしない」と力強く語っていた。その言葉をまさに実行し、最後まで勝負に徹した両チームには、会場から惜しみない拍手が送られていた。

W杯万歳、人間万歳-。歴史に残る名勝負だと言いたい。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

【J組】アルジェリア-オーストリアは点の取り合いもドロー、ともに決勝Tへ/詳細

アルジェリア対オーストリア 同点ゴールを決めるオーストリアのカライジッチ(AP)
アルジェリア対オーストリア 同点ゴールを決めるオーストリアのカライジッチ(AP)
アルジェリア対オーストリア 試合終了後、喜ぶアルジェリアのマフレズ(ロイター)
アルジェリア対オーストリア 試合終了後、喜ぶアルジェリアのマフレズ(ロイター)
決勝トーナメント進出を決め、試合後に歓喜するアルジェリアの選手たち(ロイター)
決勝トーナメント進出を決め、試合後に歓喜するアルジェリアの選手たち(ロイター)
【イラスト】W杯決勝トーナメント組み合わせ
【イラスト】W杯決勝トーナメント組み合わせ