なでしこジャパンの一時代が終わった。史上最長の9シーズンにわたり日本女子代表を率いた佐々木則夫監督(57)が10日付で退任。18日に会見を開き「コーチ時代を含めれば11年間、選手たちと世界で仕事ができました。頼りなさそうな私に、よく付いてきてくれた。大きな宝物として、この経験値を新たなステージに向けて生かしてほしい」と感謝を述べた。

 常に結果を求められ、現状維持は許されない世界。11年のW杯ドイツ大会優勝、12年ロンドン五輪と15年W杯カナダ大会の銀メダルという功績は色あせることはないが、焦点は次期監督の人選に絞られている。佐々木監督は会見で、後任監督へのエールを求められ「新たな指導者にバトンを渡し、陰ながら応援したい。世界は厳しい。僕が就任した時は(FIFA)ランキング11位で、20位のチームとは明らかに差があった。今は4位ですかね。でも、20~30位の層がかなり厚くなってきている。日本と世界の足元を確認し、いいチームを作ってください」と期待した。

 その後継者は、U-20(20歳以下)女子代表の高倉麻子監督(47)が有力となっている。佐々木監督も「決まっていないので何とも言えませんが、非常にいい指導者だとは僕も思っています」と評価。実現すれば、女子代表の監督が専任となった86年以降で初の女性監督が誕生する。

 もちろんチーム強化が最優先のため、優秀な男性監督を女子委員会が連れてくれば、さらに男系が続く可能性はある。だが、女性指導者の拡充に取り組む日本協会にとっては、受け皿を広げるためにも、ぜひ高倉氏に就任してもらいたいだろう。指導者資格の最高位で、男女の日本代表監督や男子のJリーグ監督を務めるために必要な公認S級コーチ資格を持つ女性が、まだ4人しかいないからだ。

 取得順に、なでしこリーグ長野の本田美登里監督(51=06年認定)、静岡・常葉学園橘高の半田悦子監督(50=10年)、高倉氏(10年)、今月27日の提示評議員会を持って女子委員長を退任する野田朱美氏(46=13年)。男性の416人と比べれば1%にも満たない数字だ。

 敗退したリオデジャネイロ五輪アジア最終予選(2月29日~3月9日)の期間中、大阪市内で「女性が輝く社会をスポーツから考える」と題したシンポジウムが開かれた。野田氏や元バスケットボール日本女子代表の萩原美樹子氏らが登壇。司会を、女子副委員長の今井純子氏(49=次期女子委員長に内定)が務めた。その中で議題となったのは、やはり女性の指導者と審判の養成問題だった。

 席上、野田氏は「指導者を目指していなかった」と明かした。10年に日テレの監督に就いた経緯も紹介し「ベレーザが経営難に陥った際、監督を捜す手伝いをしたんですが、見つからず。そうしたら『やれ』と言われて」。冗談もあるだろうが、女子委員長でもイレギュラーな形で指導者になる状況。改善するため、野田氏は現役のうちから資格を取ることを勧める。「(なでしこジャパンFW)大野は、確かC級を持っている。受講することで戦術理解も高まるし、仲間も増える。選手に指導者への道が広がるよう、さらに優遇策を考えたい」と話した。

 一方で、その資格自体を再考してもいいと思う。S級に次ぐA級ライセンスを取得した女性は19人。男性の1289人と比較すると、やはり1・5%程度と少ない。ただ、A級では代表監督になれないが、なでしこリーグ(女子1部)の監督は務められる。女性指導者にとって、現実的には最上位のS級を目指す必要がない状況にある。シンポジウムを聴講していた、モルディブ女子代表の河本菜穂子監督(45=14年派遣)もA級の1人だが、十分に活躍できている。言ってしまえば「男子のもの」となっている現行制度にとらわれず、今後は女子独自のライセンス策定が検討されてもいいのではないか。

 新たな女子委員長に就く今井氏は、新会長になる田嶋幸三副会長(58)の信頼が厚い人と聞く。2人にとって、なでしこ再建は最初に直面した課題。19年W杯フランス大会、20年東京五輪、そして、日本が招致を目指す23年W杯に向けて、強化、普及、育成を進めてほしい。00年のシドニー五輪を逃した後、凍えても、踏まれても花を咲かせた、なでしこジャパン。また花開く日をファンは待っている。【木下淳】


 ◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメフットの甲子園ボウルに出場。04年入社。文化社会部、東北総局、整理部を経てスポーツ部。鹿島、男子のU-23日本代表担当。今季、なでしこリーグに昇格した長野の躍進に期待。