「練習着のファッションも気にするのか?」。言葉の主は今季からJ2アルビレックス新潟の指揮を執る鈴木政一監督(63)だ。1月17日から始まった高知キャンプ(2月10日まで)。鈴木監督が笑顔で行う選手いじりは、練習前の恒例行事。選手もそれに乗り、自然と談笑が始まる。スタッフを集めてパスゲームをしばしば行う。報道陣には「そのカメラ、いくらするの?」と気さくに話題を振る。鈴木監督の周囲には、いつの間にか人の輪ができている。

 新潟は14年間在籍したJ1の座を明け渡し、今季は03年以来、15年ぶりにJ2で戦う。1年でのJ1復帰はファン、関係者だけでなく県全体の願いにも近い。そんな重圧の中、鈴木監督は立て直しを引き受けた。

 磐田の監督だった02年にJ1で前、後期完全優勝。J1通算73試合で59勝6分け8敗。勝率は8割を超える。10年には当時北信越リーグの長野の強化本部長に就任し、JFLに昇格させた。15年は母校日体大の監督として2部優勝、1部昇格を果たした。

 まさにチーム改革の請負人。「1人でだめなら、グループ、それでもだめならチームで打開しないと」、「1人でできないことでも、チームになればできる」。選手には常にそんなメッセージを送り続ける。サッカーでは組織力の向上を求め、的確な判断とその共有を土台にする。

 理論に説得力があり、戦力分析に抜かりがないのはもちろん、それ以上に組織構築のツボとして押さえているのは人心掌握だろう。さりげない言葉、態度で選手、スタッフとの距離を縮める。手の内にはいったらメリハリをつけて接する。練習中、声を荒らげることはないが、共通意識が欠けている選手は体の向き1つも見逃さずに厳しく指摘。実績がある上に親しみやすい。接する人たちを納得させる力は絶大だ。

 「このチームを変えたいんだよね」。監督就任に際して、そう感じたという。キャンプ中も戦い方が定まらず、不安定なままシーズンを迎えたここ数年とは明らかに違う空気が、すでにチームを支配している。「名将」のオーラと底力を感じながら、18年の開幕を迎えることになる。【斎藤慎一郎】

 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)生まれ、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。サッカー以外にはBリーグ、Wリーグのバスケット、高校スポーツなどを取材する。