先発に抜てきされたGK山根恵里奈(24=千葉)が完封勝利に導いた。前半12分のピンチに鋭い飛び出しで失点を防ぎ、その後は、大会最長身187センチの高さを生かして冷静にクロスを処理した。長く期待されてきた大器がW杯デビュー戦で花開き、前半29分にMF宮間あや(30)が挙げたPKによる1点を守りきった。

 GK山根の高さには、アルプス山脈を見て育ったスイスの選手も驚いただろう。先発したフィールドプレーヤーの平均身長が168センチと、日本より約4・1センチ高かった相手を見下ろした。「クロスは全部出ようという気持ちでチャレンジできたので良かった」。後半30分の右CKを処理する際にキャッチミスした以外は、クロスへの対応は、ほぼ危なげなかった。

 低いボールは187センチ、78キロの体を横に伸ばして防いだ。前半12分、DFライン裏に抜け出したFWバッハマンのシュートを鋭い飛び出しでファインセーブするなど、体格を感じさせない身のこなしで守り抜いた。佐々木監督は「自信をもっとつけて、幅を広げてくれればいい。それを望んで8年。やっとこの日が来た」とたたえた。

 2人の出会いは、佐々木監督が女子日本代表のコーチだった07年だった。当時、山根はJFAアカデミー福島所属の16歳。伸び続ける身長に体の発達が追いつかず、ケガが多い時期でもあった。「お前がなでしこの守護神になったら、歴史が変わるんだ。オレはそう信じている」と言われた。世代別代表にも呼ばれ、12年ロンドン五輪では、サポートメンバーとして同行する英才教育を受けた24歳は「監督には『8年もお待たせしてスミマセン』って言っておきます」と笑った。

 日本の最大の弱点が解消されつつある。過去には、日本協会幹部がFIFA幹部から「日本には背の高いGKがいないのか? シュートを打てば全部入ってしまう」と皮肉られたこともある。その屈辱を払拭(ふっしょく)するべく、背の高いGKを発掘する「スーパー少女プロジェクト」が04年に設立された。山根はその1期生だ。

 当初は「うどの大木」「トーテムポール」などとからかわれることもあったが、今は違う。「昨日の夜もソワソワして、いつも通りてんぱっていましたけれど、大きな1歩になりました」。くしくもトーテムポールで有名なバンクーバーの地で、存在の大きさを知らしめた。【鎌田直秀】

 ◆トーテムポール 北米北西海岸に住むインディアン諸族が、特別な関係にある動物、鳥などを彫刻した柱。バンクーバーの自然公園スタンレー・パークには9本のトーテムポールが立ち並ぶ広場がある。